シングルマザー・イン・NYC
「なるほど。希和の考えはわかったけど、篠田さんには知らせないわけ?」

「うん」

「俺だったら知りたいけど」

「……だって別れたし」

一度は重なったはずの彼と私の人生は、もう別々の方向に向かっている。

「もしこの先、他に好きな人ができたら? その子のせいで、結婚しずらいかも知れないよ」

「それは覚悟してる。だから一人でもちゃんと生きていけるように、今よりもっと仕事を頑張る」

アレックスはビールの小瓶をテーブルに置いた。

「わかった。でも希和は一人じゃないぞ」

「え?」

「俺がいるじゃないか」

「ええ? だって、アレックスはゲイだし、自分の恋愛があるでしょ? それに赤ちゃんて、うるさいし家の中散らかしまくるらしいよ? 子供が生まれたら私たち、一緒に住むの難しいんじゃないかな」

「大丈夫」

アレックスは自信ありげに頷いた。

「同性婚だと、俺は子供持つのちょっと抵抗あるんだよね。育ててる友人カップルはいるけど。だから、希和の子を一緒に育ててみたいかなー、なんて」

そして、あははと笑う。

意外で頼もしい申し出に、涙が出た。

「泣くなよ、これくらいで」

アレックスは笑いながら、ティッシュの箱を渡してくれた。
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