シングルマザー・イン・NYC
「なに?」

「一人で産むこと、もしかしてお母さんとお父さんのこと、関係してる?」

どう答えたらいいのだろう。

「ごめんね」

「お母さんが謝ることじゃないでしょ」

母は裏切られた側なのだから。

「……希和に親の醜い部分を見せたし、あの時のことは、正しい対応だったかどうか、自信がないの。私も意地になってたし」

そんな風に思っていたのか。

「気にしないで。たしかにあの時のことがなかったら判断は違ったかもしれないけれど――でも、自分で決めたことだし後悔はないから」

これは本心だ。

「わかった。ありがとう、希和。あなた、きっといいお母さんになるわ」

そうかな。
なれるかな。

母、カミーユさん、そしてアレックス。

彼らだけでなく、同僚やアパートの顔見知り、時にはレストランや地下鉄で隣り合った人たちまで、妊婦の私に祝福の言葉をくれる。

そのたびに、赤ちゃんは幸せを運んでくる存在なんだな、と思う。

私はお腹にそっと手を当てた。

さっきから動いている。

この子の存在とみんなからの祝福が、一人でちゃんと育てられるかなという不安、そして篠田さんへの未練を和らげてくれる。

大丈夫。大丈夫。
なんとかなる。
ちゃんとやっていける。

何度も何度も心の中で繰り返して日々を過ごし、ニューヨークが秋から冬に移り変わる頃、私は元気な男の子を生んだ。
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