シングルマザー・イン・NYC

篠田さんの言っていた「秘密の部屋」は、部屋というには大きな空間だった。

ガラス張りのショーケースが整然と並んでいる。

篠田さんと私は、一列一列、ゆっくり棚の間を歩いた。

大きな肖像画が並んだケースがあるかと思えば、別の列には椅子が沢山。

きれいなガラス瓶の棚、食器の棚、などなど、美術館とアンティークショップの中間のような、なんとも言えない魅力にあふれた空間だった。

「METの中じゃないみたい」

静かで、人がいなくて。

「でしょ。ソファもあるし。座る?」

こんなところにゆったりしたソファがあったとは。

私たちは、少し間を開けて座った。

「穴場ですね。教えてくれてありがとうございます」

「どういたしまして」

……そして訪れる沈黙。

知り合ったばかりの人と一緒の時は、こういうふうだ。

しかも、これまで付き合ってきた人たちは、クラスメイトだったり、友達の紹介だったりして、どんな人か大体知っていた。

でも篠田さんは違う。

知っているのは名前と連絡先(お店の予約時に登録してくれたから)、そして学生らしい、ということのみ。

そういえば、年齢も知らないんだった。

「篠田さんて」
「斉藤さんて」

口を開いたのは同時だった。

また訪れる沈黙。

「どうぞ」

と篠田さんが譲ってくれたので、きいてみる。

「おいくつですか?」。

「三十一」

「斉藤さんは?」

「二十七になったばかりです」

「四歳違いか」と篠田さんはつぶやいた。

「これからどうしようか。時間はある?」

私はうなずく。

「じゃ、ご飯食べに行こう。行きたいお店は?」

「いえ、特には」

ほとんど外食をしないから、お店のことはよく知らない。

「チャイナタウンでもいい? 友達が安くて旨いって教えてくれた店があって、行ってみたいんだ。でも地元民ばっかりで入りづらいかも――」

「おもしろそう。そこ、行きましょう!」

チャイナタウンは初めてだ。ワクワクする。

< 9 / 251 >

この作品をシェア

pagetop