きっかけ
きっかけ
「あ、降ってきた…」
残暑とは名ばかりの、まだまだ盛夏のような気温の中、買い物帰りに立ち寄ったカフェで涼んでいると、空からは激しい粒が降り注いできた。
夕立だ。
「やだな、今日は新しいサンダルおろしたばっかりなのに」
向かいの席からは気落ちした呟きが。
「夕立だからきっとすぐやむよ。それまで待ってよう?どうせもう用事は全部済んでるんだし」
「じゃ、雨がやむまでもう一つデザート食べちゃおっかな。すみません、オーダーお願いします!」
甘いものに目がない彼女は、チャンスとばかりにメニューに視線を落としていく。
そんな彼女を横目に、私は窓の外を見上げた。
いつの間にか厚くなっていた雲は、すっかり夏の光を妨げている。
すると、ふと、懐かしい記憶が甦ってきて。
今までもこんな突然の夕立に遭遇したことは何度もあるのに、今日に限って、あの日のことが思い浮かんでしまったのはなぜだろう?
懐かしくも、ほんのり切なく、当時の自分の幼さを思い知る記憶の一片。
店員を呼び、嬉々と追加注文をしている向かいの席の彼女にはばれないように、私はこっそりと、記憶の中のあの日に気持ちを巡らせていったのだった――――
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