蒼月の約束
第八話

どうしたら、いいんだろう…。

とんでもなく事が大きくなっている気がする。


エルミアの脱走事件以来、宮殿で働いているエルフたちの態度は良い方へと変化したが、それと同時に期待のまなざしも感じられずには、いられない。


「私は、ただ帰りたいだけなのに…」


エルミアは、暗い気持ちで、王宮の最上階にある小さなバルコニーから外を眺めていた。


王宮の背面に位置するその眺めの良いそこからは、近くの集落や遠くの地平線まで見渡すことができた。


バルコニーからすぐ下に見えるのは、エルフたちが「呪いの森」と呼んでいるうっそうと茂った木々がある。

しかし、呪いのというには、いささか美しすぎるのではないかと、思わずにはいられなかった。

紅葉の季節の今は、色とりどりの葉っぱが、気まぐれな風によって四方に揺られている。

秋色の木々がそよそよと風に吹かれては、赤、黄、オレンジ色の葉っぱがふわりと宙を舞う。

その上を見たこともない緑色の鳥が楽しそうに飛び回り、カラフルな情景にさらに輝きをもたせる。

頬を撫でるそよ風が、エルミアの肩までのびた黒髪をもて遊ぶ。


「ん~気持ちいい」

王宮の周辺を飛び回る鳥の鳴き声が、歌声のようにも聞こえてきて、さっきまでの気持ちの落ち込みはどこへ行ったのか、だんだんと心が軽くなってくるのを感じた。


エルミアは、無意識のまま鼻歌を歌いだした。


たまたま頭に思い浮かんだのが、幼稚園の時に、お遊戯会でさんざん歌って踊った曲だった。

未だに覚えている自分に、思わず笑いがこぼれてしまう。


頭の中で音楽が流れ続けるので、いつものように口ずさんでいると、さっきまで風に自由に吹かれていた色とりどりの葉っぱがエルミアの歌に合わせて動き始めたように見えた。

エルミアは夢心地で、手を指揮者のように振りながら歌い続けていた。


ふとその時、脳裏に何かがよぎった。


【…スの金の羽根】


「なに?今の…」


【…ガサスの金の羽根】


「ペガサス…?」
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