中学生の頃の話だ。





何も知らない、無邪気な子供だった頃。





私は先生に恋をしていた。





その人の名前は、早坂咲夜(はやざかさくや)。






理科の先生で、女子生徒からの評価も高い。






まさに高嶺の花。




当然、カースト最下位にいる私は相手にしてもらえないと分かりきっていた。





だけど、姿を見るだけでも勇気をもらえた。





ダメダメな私、冴えない私を支えてくれた唯一の救い。






だけど、その希望も打ち砕かれることとなる。





それは、中学二年の冬時だった。





私はノート点検係となり、みんなのノートを集めて、咲夜先生がいる理科室に行くことに。




少しでも、咲夜先生に触れられると馬鹿みたいにはしゃいでいた。





こっそり理科室の小窓からそっと覗くと……。






「沙耶(さや)、愛してる」






一ノ瀬沙耶(いちのせさや)……。





その女の子は、この学校のマドンナ的存在だった。





そして、私をいじめる天敵でもあった。





彼女は、自分の気に入らない人間を徹底的に陥れる悪魔のような人間。



根も葉もない噂を流して、みんなを遠ざける、そんな女。



私がレズで女を食い物にするという噂を流し、私の友達は全員消えてしまった。一ノ瀬のせいで。



他にも、「アイツキモオタでさぁ、二次元に恋人作って、人間として終わってるw」とか、「生きてて楽しくないよねー、あんなどブス女。男に相手されないから、レズの集まりで恋人作ってんだよw」とか。



それを、教室でみんなに聞こえる様に、先生がいない自習時間に大声で言われた事がある。そんな悪質きわまりない女が……。


ーーどうして?




ーーどうして、咲夜先生と?




頭の中がフリーズでもしそうだった。





だって、咲夜先生が彼女を見る目線は、愛おしそうに見つめているんだもの。




手に入らないことぐらい、私は分かっていた。昨夜先生はきっと私以外の人とお付き合いをして、赤の他人になる……そう思っていた。




だけど、私が好きな人は、私をいじめる女が好き……。






一番、好きになってほしくない存在に目を向けている咲夜先生。こんな状況を見せる神様はきっと私の事なんて嫌いなのだろう。



なんだか、悪い夢でも見てるみたいに吐き気がした。




ーー帰ろう。






帰って、頭を冷やして早く寝よう。ここにいれば、きっと自分が壊れてしまう。そう思った。



だけど……。





「あ、そうそう。うちのクラスにいるさ、川崎摩耶(かわさきまや)って子いるじゃん?」





自分の名前を呼ばれる。足が止まり心臓が鷲掴みされた。まるで心臓の寿命が来たみたいに、胸が苦しい。



悪い胸騒ぎがする……これは一体なんなの?






「あぁ、アイツ?」




咲夜先生は、何気ない顔で「アイツどうかしたの?」と沙耶ちゃんに聞いた。





「アイツ、咲夜の事が好きみたいなんだよねー」




分かりきったことのように、鼻で笑う沙耶ちゃん。あの声は、他人を下に見て蔑んでいる声だ。底辺にいる人間だから、すぐに分かった。



次の瞬間咲夜先生の口から、突き放す様な鋭い言葉を投げかけられる。



「アイツ?俺無理。ああゆうヤツ、タイプじゃない。ブスだし、可愛くないし、鈍臭いし、面倒」



それは、一瞬の出来事でもあり、長い長い、悪夢の始まりでもあった。


私の中で、何かが音を立てて崩れ壊れた。それは、純粋だったあの頃の気持ち。人を純粋に好きになる、暖かなあの気持ち。フワフワして、飛びたくなる様な軽やかなあの気持ち。




冷たく、人間を憎む悲しい心が私の体を支配し鉛の様に体が動かない。





咲夜先生が沙耶ちゃんを優しく抱く。沙耶ちゃんは目を閉じる。







そして、私がいるとも思わず、二人は唇を重ね合わせた。






土砂降りの雨が、周りの空気を包み込む。雷鳴、そして轟。





最初で最悪の初恋は、高校生活にまで引きずる事となる。