「ーーてばっ!!」
……てば?
何、手羽って?
焼き鳥の手羽って事?
「ーーきってばっ!!」
あーもー、さっきからうるさいなぁー。
一体さっきからなんなの?
体が揺れてる感じもするし、地震?
「起きろっ!!この、おバカっ!!」
仰向けに寝ていた私のお腹に、チョップを構し、無理矢理叩き起こされた。今日もお腹から、バチンと激しい音がなる親友のチョップ。そんな手荒な真似をする親友の名は小林伽耶(こばやしかや)。
「……うっ、か、伽耶!!乱暴に起こさなくてもいいでしょ!!」
「もう何時だと思ってんのよ。もうすぐ昼休み終わるよ。保健室から出なきゃ」
そう私が寝ていた場所は、とある高校の保健室の一室。先生の許可でベッドを借りて、ぐっすり熟睡していたのだ。高校二年の私は今日も保健室に頼りきった生活をしている。
「あと3分寝かせて」
「あんたは、アホかっ!!」
かぶろうとしていた毛布を引っ張られ、危うくスカートがめくれるところだった。
ーーていうか、もういっそう、スカートめくって嫌がらせにパンツ見せてやろうか?
そんな不機嫌モードに突入した瞬間が伽耶にはわかったのだろう。溜息をついて、私にこう言った。
「主席日数、ギリギリなんでしょ?書道の授業。行かなきゃ」
腰に手を当て、お怒りのポーズ。丸々大きなお腹が出ているその巨漢は、相撲をすれば100パー勝てると思う。
「嫌だよ、あんなロリコン教師の授業受けるなんて!!可愛い子にしか優しくしないあの、狭山(さやま)先生だよっ!?」
「そんな事言って、子供なんだからっ!!この先世の中にその言い訳が通用するわけないでしょ?そんな男山ほど卒業したらいるよ」
伽耶はそんな大人びた説教を私に聞かせるけれど、本当は伽耶自身も狭山先生の事を嫌っていると思う。
それはなぜか。答えは一つだった。伽耶はこの学校でのポジションは、私と同様「ブスキャラ」なのだ。あのロリコン教師狭山に冷たくあしらわれる女子高生。(まぁ、別に優しくされたくもないんだけどね)
伽耶もいじめられっ子枠、無事確保してしまった仲間。普通に授業は我慢して受けているが、こうして昼休み保健室に通って男子の冷やかしから自分の身を守っている。
そもそも、陽キャといわれる人間が、昼休み保健室になんか来るわけないんだけどね。(伽耶には悪いけれど)
「あたし達ブスは、せめてでも普段の授業は真面目に受けなきゃいけないの!!分かる?」
また始まった。伽耶の「ブサイクの心得」(←私が勝手に読んでるだけ)
「いい、ブサイクたるもの自分でできる範囲のことは、人に頼らないようにしなきゃいけないの。人に甘えるっていうのは、美人だけにしか与えられない特訓なの!!」
「えー。でも、そうゆう私達は昼休み保健室の一角を借りて、男子達からの冷やかしから少しでも身を守ろうと、ここへ逃げてるじゃん」
伽耶が「う……」と口を閉ざす。
そうだこの調子だ。伽耶を黙らせれば、私はゆっくりとこの保健室で眠れーー。
「私たちがここへ逃げてるのは、そうでもしなきゃ自殺するぐらい辛いから」
毛布をかぶろうとした私の手が、ピタリと止まる。
「ブサイクは、逃げられない事実だし……いじめは自分の力じゃどうすることもできないじゃん。バイトして、そりゃーお金を沢山稼ぐ力があれば、整形だったできるかもしれない。けどさ、働いたとしても、お金が貯まるのは、学校卒業した後。学校にいる間は絶対整形なんてできない事決まってる。だから、自分の力じゃどうすることも出来ないからここへ逃げてるの!!休むために逃げてるわけじゃないのっ!!」
伽耶の口から、苦々しい、痛々しい、言葉が紡ぎ出された。
「ブサイク」……呪いの言葉みたいに私の頭から離れないこの言葉。この言葉さえ無ければ、人生はイージーモドーだったはず。高校デビューだって気楽で楽しいものだっただろう。
私がもし美人で、冴えていたらどんなに良かったか。
クラスで誰が一番可愛いかなんて、男子の合間で口論になった時、真っ先に「あいつはないよな」なんて指さされていわれることもない。
そして、好きな先生から「ブスで、可愛くない」なんて言われない。
私はかぶろうとしていた毛布を、ギュッと握りしめた。
「……やな事思い出させないでよ」
「あんたが、授業出ようとしないからこんな話になったんでしょ!!ほら、行くよっ!!」
伽耶が私の手を握って、保健室から飛び出した私達。
もう、本当に嫌なのになぁ……。授業なんて受けたくない。
きっとクラスのみんなは、私と伽耶を見下し笑う事が何となく予想できるからだ。