「……はぁ?」



第1声はそれだった。




知的障がい……それって、よく24時間テレビで見かけるああゆう人達……?




そんでもって、ADHDって?




発達障がいって……?




何かの呪文……?




いきなり、「障がい者の方々と同じかもしれない」なんて言われたものだから、頭をバットで殴られぐちゃぐちゃになった気分だった。




「……お母さん、何言ってるの……?」





「……そのまんまの意味よ……」




その時、母が少し鼻をすすって泣いているのが分かった。




「え……泣いてる?」なんて、思った時にはもう遅くて、母はとうとうハンカチを持ち出して、声を出して泣いたのだ。



お店の人ビックリして、慌てて母に駆け寄った。「だ……大丈夫ですからっ!!」って言って、なんとか抑えたけど。



ーーえ、えぇ!?何で泣くの……!?





ーーというか、この場合で泣くべきなのは私なはずなのにっ!?




当時の私から考えるとそう思うのも無理もなかった。だって、今まで「普通」の人間として育てられ、今まで十数年間生きてきた人間に、いきなり「お前は障がい者だ!!」なんて宣告されているようなものだ。



人間、「普通」が1番いいに決まっている。障がいなく普通に私は暮らしていきたい。当時も今も、障がいがあるって、正直負のイメージしかない。差別や、偏見、軽蔑。そんな風に世の中に見られると思うと、それがどんなに辛い事か。私だったらとてもじゃないけれど耐えられない。周りの人間に「普通」の存在でも、垢抜けない芋女の私なのに、さらに障がいがくわわるとなると、誰にも見向きされないんじゃないか……そんな恐怖さえ覚える。



私は、どこか「障がい者」という肩書きが嘘であってほしいと願っていた。少し泣きたい気分だったけれど、ここで二人ともカフェで泣けばいい迷惑。





突然泣かれて、どう対応していいかわからない。だけど、言葉をここで何か言わなければいけないだろう。だから、咄嗟に出した言葉は「……えっと、でも……その、まだ決まったわけじゃないでしょ? あくまでも推測でしょ?」とこれだけ。





「ううん。摩耶は障がいを持ってる。明らかに他とは違うわ」





母は、キッパリとそう言った。涙はそこで少し抑えられ、母は落ち着きを取り戻し、説明し始めた。





「まず、朝出かける時身だしなみを整えないでしょ?他の女の子は小まめにチェックして、綺麗にしてるのに……授業参観に見た時なんて、変な髪型していたの摩耶だけよ?」





グサリと胸を刺された。そうだ。私はいつもそうなのだ。授業の準備や移動することに夢中で、身だしなみを整えない。



体育の時間、終わった時も、「次は数学があるから、急がなきゃ!!」と思い、「身だしなみを整える」というのを忘れてそのまま出席。クラスから、変な目で見られているというのは、結構、いや日常茶飯事なのだ。



「ーつの事に熱中しすぎて、二つ同時に行動できない」



そんな言葉が頭の中を駆け巡り、ふと、店内の鏡を見る。「カフェに行く」というのが頭から離れず、「身だしなみを整える」というのを忘れてしまった結果だ。バサバサな髪型。ふと周りを見ると、チラホラと不思議そうな目線が刺さる。





「ADHDっていう症状がある子は、身だしなみを気遣えるほどの注意力が無いの。注意力が散漫してて、一つのことには集中できるけれど、二つ同時にやろうとすると、上手くいかないみたいなの。その代わりと言っては何だけど、忘れ物毎日毎教科何かしら忘れているって、先生から聞いてるのよ?おかしいと思わない?」






そう私は、これだけではなかった。私は、好きなものによく吸い込まれるように熱中してしまう事があるのだ。帰ってきてゲームをする。まだそこまではいい。だが駄目なのはそこからだ。





ゲームして気づいたら明日の準備なんてする事も忘れて、明日の準備をせず、寝てしまう。そして忘れ物が多発。そんな症状を持っていた。それも毎週、毎日嘘みたいに忘れ物が多い。



直そうと努力はしてみたけれど、「この教科を入れよう」と思って決めた教科書を入れようとしたら、「別の教科書、持ってくるものを忘れる」という大惨事を引き起こすのだ。





「不思議な事はこれだけじゃ無いわ。次に変なのは、摩耶はいっつも、何かを妄想して常日頃から、「うふふ」って笑ってる所」





その指摘も、グサリッと胸をえぐる。私は授業中、授業の内容についていけなくて、いつもノートに落書きして、絵を描いているのだ。まだそれだけだったらいいのだが……。




「授業中に絵を描くのならまだしも、一人で授業中毎時間「うふふ」って笑って、ニヤニヤしてるみたいね。私、担任の先生方に聞いたわ。それも毎日よ?おかしいでしょ?「普通の子」ならそんな事しないわよ」


そう、授業内容が分からず、一人で空想の時間に浸る事が多いのだ。空想している私は、一人でニヤニヤ。そして一人でに「うふふ」と笑ってしまう癖があった。楽しい事を考えると、不思議と笑ってしまう。



ハッとなって、周りを見渡すとみんなびっくりした目で私を見ている……なーんてことは、本当に日常。




ここで、私は「やっぱり普通の人間ではない?」と悟り始めた。改めて言われてみると、やっぱり私はどこか「おかしい」。尋常じゃないぐらいの忘れ物。挙動不審。



ーー「普通ではない」。


「軽度知的障がいを持っている子供は、常日頃から妄想が頭の中から離れないんですって。常日頃から、わけもなくニヤニヤしてる、笑ってる摩耶によく、当てはまってるわ。妄想しすぎで、人の話聞いてない事が多い。そのせいで、体育祭の時一人だけ、遅刻。縄跳びの朝練それが原因で、クラス練習出来なかったみたいじゃない。しかも、この似たようなことよく起こってるって聞いたわ。先生、「みんな迷惑してるんですけど、どうゆうことなんですか?」って先生混乱した様子で私に聞いてきてゾッとしたわ。だって、先生にこれだけ言われる事はよっぽどよ、よっぽど。やっぱりおかしいのよ。これじゃあ生活に支障が出てるわ」






そう、私はよく一人の世界に入り込んでしまう。好きなキャラクターを作り、物語を作る……ここまでなら良い。だが、その事に熱中しすぎて、人の話を聞かない、授業の内容も頭に入ってこない、肝心な事を聞き忘れる。




その結果、先生達にこっぴどく怒られ、クラス中によく迷惑がかかっていた。連帯責任を謳った中学校にいたから、なおさらだった。




私も、好き好んで妄想をしているわけじゃない。何度も、何度もやめようと思っていた。だけど、止めれば止めようとするほど、妄想が止まらず、あっという間に、放課後なんて事がよくある。






そんな私は、当たり前だがカースト底辺。いや、底辺以下だった。底辺の人間にも嫌われていて、話しかけようとする人は実は一人もいない、「やばい奴」だった。





ーー甘えてるんだよ。




ーーいいよね。子供って。甘える事が出来て。





先生にも、クラスメイト達からも冷たい一言。どうすればいいのかわからない時期にこの話はやってきた。







「私……摩耶の様子どうしてもおかしかったから、ネットで調べたの。そしたら、こうゆう「障がい」を持って生まれてくる人がいるんだって」


私は、押し黙った。反論しようにも、症状が当てはまりすぎて、出来ないのだ。

「だから……明日でもいいわ。検査しにいきましょ?」



ふと、お皿にあったパンケーキを見た。あんなにアイスが盛られていたのに、ベチャベチャになって溶けていた。いちごソースも見る影なし。



色んな出来事があって、まだ整理しきれない私を母は涙ぐんだ目で私を見た。



「いっそこんな事なら、早く気づいて、障がいを持っているクラスか、障がい支援の学校に入ってれば、「周りの人」にもこんなに迷惑をかける事はなかったのに……私ってば情け無いわ」




ーーえ……?



その言葉が胸に突き刺さる。だって、母は「私」を心配しているわけではなく「周り」に迷惑をかけた事で泣いているからだ。




そうか、「母は私の味方ではない」のか……。



ふと、目の前に置かれたパンケーキを食べる。込み上げる悲しさを紛らわすためだ。ビショビショになった、パンケーキはお世辞にも美味しいとは言えなかった。