陰キャの渡瀬くんは私だけに甘く咬みつく

陽呂side

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「……美夜?」

 呼びかけるけど、返事がない。

 どうやら今日も美夜の方が先に落ちてしまったらしい。


 ついさっきまでとろんとした目で俺を見ていた瞳が(まぶた)で隠されている。

 薄く開いた唇からは規則正しい吐息が漏れていた。


 俺の執拗(しつよう)なほどのキスに()えかねて意識を手放してしまうのはいつもの光景。

 そのままスヤスヤと眠ってしまう美夜は可愛いけど、俺はちょっと不満。


「もっと欲しいってのに……」

 まだまだ足りない。

 もっと美夜を感じていたい。


 でも、寝込みを襲うなんてことはしたくなかった。

 そんなことをしても美夜の記憶に残らないから。

 美夜には俺のすべてを刻み込んでおきたいから。


「……はぁ」

 気持ちを吐き出すようにため息をついて俺もベッドに横になる。

 美夜の頭を少し上げて、腕枕をするとそのまま抱き込んだ。


 近くなったその(ひたい)や目じり、頬に唇を押し当てるようなキスを繰り返しながら、俺は自分の体と心を落ち着かせていく。


 美夜は、俺の“唯一(ゆいいつ)”だ。

 吸血鬼にはそういう相手がたまに見つかるらしいと聞いた。


 それを教えてくれた人は、まさか吸血鬼になってすぐにそういう相手と出会えるとは……と少し驚いていたな。
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