冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。
5.


「あけましておめでとうございます、仁さんっ!」

「ああ、おめでとう」

「あけましておめでとうございます、まり子さんっ!」

「ええ、おめでとう。千聖ちゃん」

食卓を彩るのは、まり子さんに教えて貰いながら作ったお節の数々。

煮しめなんて、食材ごとひとつひとつ味を変えて煮たから、全てこしらえるのに3日もかかったんだから。

お雑煮は関東風か関西風かどちらにしましょうか。と、まり子さんと相談を重ねた結果、わたしが食べ慣れた方でいいと言ってくれたので関東風にしてもらった。

これだけはわたしが全部作らせてもらった。

おすまし風の汁に、具は鶏肉、ピンクの蒲鉾、小松菜に椎茸。そして、最後に三つ葉と刻んだ柚子の皮を乗せて出来上がり。

おばあちゃん直伝のお雑煮だ。

「ほう、これが千聖が作った雑煮か」

仁さんの前にお腕を持って行った。

「おばあちゃんの味なんです。わたしは美味しいと思うんですけど…」

おばあちゃんの料理の腕は確かだから美味しく出来た筈なのに、それでも自分の腕の自信のなさからつい弱気になってしまう。

すぅと静かにお椀に口をつけ汁をすする仁さんを、ビクビクしながらも目が離せないわたし。

「ん。美味い」

「本当ですかっ!?」

にっこりと笑う仁さんが信じられなくてつい疑ってしまった。

「本当だとも。鶏肉と椎茸から良い出汁が出ているな。お祖母さん仕込みなんだろう?料理上手なお祖母さんだったことが想像つくな」

「ぁ、ありがとうございます」

おばあちゃん、やったよっ!

おばあちゃんの笑顔を思い出して、涙ぐむ。

「千聖も座って食べなさい。まり子さんも」

いつの間にかわたしの斜め後ろに立っていたまり子さんも「良かったね」とニコニコ顔だ。

3人で迎える初めてのお正月。

こんな幸せなお正月はもうやって来ないと思ってた…。

でも、この幸せを噛み締めてしまったら砕け散ってしまいそうで怖い。

砕け散ってしまったら、もう元には戻れないんだもの。

そう思うと、どこかこの幸せが怖く思う自分がいたーー。




< 52 / 80 >

この作品をシェア

pagetop