相思相愛マリアージュ(前)~君さえいればそれでいい、二人に家族計画は不要です~
円満離婚
産婦人科医局長の辻教授に私と奏弥さんは二人揃って呼び出された。

「俺達に何か御用ですか?」

奏弥さんはけん制した様子で辻教授を問いかけた。

「君たちの結婚は心から祝福するよ…槇村奏弥先生・遥先生」

「ありがとう御座います…」

「お兄さんも横浜の実家の病院を継ぐ為、東亜を去るんだな…」

「はい…産科は万年人手不足で兄が東亜を去ることはとても痛手に思っていますが…俺が兄の分まで頑張るつもりです」

「…いい心意気だな…それよりも・・・少しばかり…私の研究を二人に手伝って貰いたいんだ…」

教授は私達に資料を渡した。

「今、研究してるのは未受精卵についてだ・・・生殖分野において、我が国は他の国よりも遅れを取っている…ようやく東亜の中でも研究が始まったトコだ。遥先生は当院で白血病の治療を行い、その際に卵子凍結をした。槇村先生だって研修医時代に精子凍結を行った。二人の卵子と精子はこの東亜の中で保存されている…生殖機能を失った遥先生が体外受精で妊娠出産すれば…これは当大学においては快挙となり、大いに注目を浴びる。我が国の生殖分野の未来の為に医療従事者として協力してくれないか?」

奏弥さんは両手に拳を握りしめて、唇を噛んでいた。

「返事は今でなくてもいい…考えてくれ。槇村先生…」

「・・・未受精卵の妊娠率は低い…流産する可能性の方が高いです…俺と遥は子供を望んでいません…その話はお断りします!!」

奏弥さんは即決で断った。

「・・・君はそれでも…産科医か!!赤ん坊を取り上げるだけが…産科医じゃないぞ!!」

「・・・行くぞ…遥」

激怒する辻教授に背を向けて、奏弥さんは教授室を出た。



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