聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
二章
 月日はまたたく間に流れて十二月。街はハロウィンからクリスマスに衣替えを済ませていた。

「えぇ? 二十四日ですか?」
 すっかり仕事モードになっていた玲奈もその話にはさすがに目を丸くした。例のプロジェクトの主要なパートナーとなる大手鉄道会社の会長との会食を二十四日に設定したと十弥は言うのだ。

「そう、来週の木曜日だな。都合が悪いか」
「いえ……特に都合が悪いわけではありませんが、クリスマスイブですよね?」

 昭和の時代ならともかく、昨今はどこの企業も社員のプライベートを尊重する。クリスマスに接待や飲み会などは設定しないのが暗黙の了解になっていると思っていたのだが……十弥はしれっとした顔で玲奈の言葉を受け流す。

「それならよかった。店の選定と先方への手土産の手配も君に任せる」
「――承知いたしました」

 クリスマスについて答えるつもりはないようだ。十弥らしいなと玲奈が小さくため息をつくと、彼はなにかを思い出したように玲奈の目をじっと見た。

「なにか?」
「そういや君には恋人がいるんだったな」
「いや、その……」

 恋になる前にあっけなく散ってしまったのだが、これは彼に伝えるべきことなのだろうかと玲奈は逡巡していた。すると十弥は唇の端だけを持ちあげにやりと笑んだ。

「これも統計の話だが……イベントにこだわるカップルは破局が早い。平日は仕事を優先しておけ」

 十弥はそれだけ言うと、くるりと背を向け自身のデスクへと戻っていった。

「デートを優先したくても相手がいなくなっちゃったんですけどね」

 玲奈は唇をとがらせ毒づいたが、もちろん彼の耳には届いていない。

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