腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。

病院

「んー、だいたいの症状は貧血のせいで間違いないと思うんだけどね。問題は何でこんなに貧血が進んじゃってるのかってことだよね。献血、してたんでしょ?」

「はぁ」

そんなこと言われても、私も分からないからここに来たわけで。

「とにかく、一度大きい病院で身体の中に出血がないか見てもらってね。紹介状書いとくから」








わりと早くマンションを出たと言うのに、結局呼ばれるまで二時間以上待たされた。そこからさらに採血されるまで待たされ、結果が出るまで待たされ、小さなクリニックを受診するのに半日が終わってしまった。

結果的には極度の貧血だったみたいだけどその原因が分からず、私はクリニックを受診したその足でこの近辺では一番大きな大学病院、火野崎大学医学部附属東京病院(ひのさきだいがくいがくぶふぞくとうきょうびょういん)の産婦人科を受診することになった。

ちなみに、妊娠している可能性は絶対にない。

引っ越したその日から私の体調が悪くなり、航大の相手も一切できなかったからだ。

それではなぜ産婦人科かというと、私みたいに比較的若い女性の場合、婦人科疾患で貧血になることが多いからなのだとクリニックのおじいちゃん先生が言っていた。ていうか、朝鷹峯(たかがみね)さんが一瞬で私の症状を見抜いてたな。やっぱり、鷹峯さんに()てもらえば良かったのかな。

「これはいよいよやばい病気なのかも……」

色々な思考が頭の中をぐるぐるして、私は茫然自失(ぼうぜんじしつ)のままクリニックを出ると航大に電話をかける。

長いコールの後、航大が電話に出た。

『……もしもし、なに?』

朝のことを引き摺っているのか、航大の声は低い。でも私は私でそんなこと気にする余裕もない。

「航大……? 私、病気かもしれない……これから大学病院を受診することになったの……」

私がそう告げると、電話の向こうで少しだけ考え込むように航大が黙った。

『そうなんだ……結構時間かかりそう?』

「えっ?」

なんでそんなことを気にするんだろう。

「まぁ、そうだね……飛び込みだし、かなり待たされるとは思うけど……夜には帰るよ」

『分かった』

それだけ言うと、ガチャリと電話が切られた。電話の向こう、何だか騒がしかったな。忙しい時にかけて、面倒臭いと思われたかな……。

重い病気かもしれないのに、全然心配してくれないことが悲しかった。










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