そんな人、できるわけない。少なくとも、私はあなたに惹かれていたのだ。でも、ただの一度も自分に興味を持ってもらえることはなかった。だからずっと置物のようにそばにいた。いつしかそんな自分が嫌になり、自分を好きになってあなたに歩み寄ろうと一歩踏み出したけれど、その日に裏切られたのだ。
 もう、無理だ。何も弁明する気力が起きない。
 この人とは一緒にいられない。ずっと傷つけられてばかりいる。
 そのシンプルな感情が、私のことを悲しいくらい強くさせる。
「私は……あなたともう二度と会いたくありません。それだけです」
 悔しい。泣かないと決めていたはずなのに、つうっと自然に頬を涙が伝っていく。
 泣いている私を見て、黎人さんはさっき以上に驚いた顔をして、目を見開いている。
 どうして少し傷ついたような顔をしているの?
 私たちはもう別れるのだから、黎人さんがそんな風に傷つく権利は、もうどこにもないというのに。
 私はそんな彼から目を離して、バッグから書類を取り出し、テーブルの上に置いた。
「離婚届です。結婚生活約四ヵ月で離婚はさすがに黎人さんも体裁が悪いでしょうから、一年半後、日本に戻ってきたときにこの離婚届を提出してください」
 はじめて私が感情を表に出しているのを見て、黎人さんはただただ驚いているのだろうか。ここまでの覚悟だとは思ってもみなかったのだろうか。
 家族にはまだ話せていないので、保証人の欄は、大学時代の数少ない友人に書いてもらった。
 彼は何も言わずに、テーブルに置かれた離婚届を茫然と眺めている。
 どうして? 黎人さんもこのしがらみから解放された方が、幸せになれるはずなのに、どうして今さらそんな戸惑った態度を見せるの。
 私はゆっくりと席を立ち、もうこの部屋から出ていこうとした。
「待て」
 しかし、黎人さんはそんな私を突然引き止めた。久々に触れられ驚いた私は、反射的に手を振り払ってしまう。
 その激しい動作が原因だったのかは分からないが、タイミング悪くも突然つわりがきてしまい、私は口を押さえてその場に座り込んだ。
「うっ……」
「おい、どうした」
「は、離れてください……。大丈夫ですから……」
 最初はただ体調不良を心配してくれていた様子の黎人さんだったが、だんだんと私の今日一日の様子を統合し、何かを察していく。