離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
 自分だけ脱いでいる恥ずかしさに耐えられず、私は思わず彼の体を押し返す。
「ま、待ってくださ……」
「とうに覚悟はできたんだろう?」
 ……そうだ。私の気持ちなんて、今の獣のような彼には全く関係ないのだった。低い声で問いかけられ、そのことをすぐに実感した。
 黎人さんの長い指が焦らすようにつーっと胸を滑ったかと思うと、次の瞬間には甘い痛みが先端に走る。黎人さんの大きな手が簡単に私の体を好きにしてしまい、何も考えられなくなる。
 私の本音など、どうせ言っても無駄だろう。きっと、あなたをただ困らせるだけだ。
 本当は出会った時から、あなたに心底惚れていただなんて。
「れ、黎人さん……!」
 ぎゅっと目を閉じて恥ずかしさに耐えると、瞼の裏に“ある景色”が浮かんでくる。
 五年前、あなたと初めて会ったあの日は、椿の花が美しく咲いていた。
 でも今はもう、悲しいくらいあの赤が霞んで見える。

その日、私はキスもされないどころか、名前も一度も呼ばれないまま、ただ義務的に体を重ねた。
 その日の夜が、私たちが体の関係を持った最初で最後の日だった。
 しかし、私はこのとき夢にも思っていなかったのだ。
 まさかこの義務的なたった一夜で、子を身籠ってしまうだなんて。
< 2 / 107 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop