▼独占欲 side黎人 

 仕事が予定より早く終わり、気を利かせた現地の秘書が早急にチケットを手配して日本に戻れるようにしてくれた。
 この一年半、本当に色んなことがありながらも、新しいホテルの立ち上げは無事成功し、あとは現場に任せてもいい段階にまでなった。
 寝ずに働くとはまさにこのことかと思うほど多忙だったけれど、俺は一度たりとも花音と子供のことを考えない日はなかった。
 両親から生まれたばかりの娘の写真が届いた時は、とても複雑な心境になったのを覚えている。
 我が子を素直に愛しく感じる。それと同時に、そんな感情を自分が抱いてもいいのか分からなくなった。
 飛行機に乗っている間もまったく気持ちに整理がつかないまま、刻一刻と日本に近づいていく。
 とにかく、一年半家を空けていたのだから、一度葉山家に立ち寄って今後の関係性のためにも家元に挨拶をしておこう。すぐ帰れば花音と鉢合わせる可能性も少ないだろう。
 本当は顔を見たいと思うけれど、彼女はそんなことを全く望んでいないだろうから。
「急に申し訳ございません。三鷹です。本日帰国しましたので家元に挨拶だけでもさせて頂きたく……」
「三鷹様! しょ、承知しました……! 今お茶を出しますのでここでお待ちください」
 お手伝いさんに声をかけると、彼女たちは焦ったように声を裏返して、バタバタと家元を探しにいく。
 急な訪問で忙しなくしさせてしまい申し訳なく感じたが、菓子だけでも置いて帰ろうと思っていた。
 案の定、家元は今外での商談で家におらず、夕方には戻って来られるだろうとのことだった。
「そうでしたか。では、これを皆さんでぜひ……」
「花音様はおられますよ! 丁度今娘さんと一緒に……あら?」
 花音、という名前を聞いて、ピクッと眉が動く。本音を言うと、一目だけでも見たいーーそう思い顔を上げると、怒ったような顔で歩いている花音の姿が遠くから一瞬見えた。
 ただごとではない顔をしていたので、俺はお手伝いさんに「何かあったのでしょうか」と、思わず聞いてしまう。
「応接室の方に向かわれましたから……、もしかしたら慶介様にご挨拶に行かれたのかと……」
「慶介が今来ているんですか?」
「ええ、丁度さっき来られまして」