離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
 従弟の慶介は横暴な態度が原因でちょくちょく問題の声が上がっていた。ここの担当につけた覚えはないが、俺がいない間に自ら志願して担当についたのだろう。お手伝いさんの表情を見ても、奴があまり歓迎されていないのは十分伝わってくる。
 少し不安になった俺は、「仕事のためだ」と自分に言い聞かせて、一年半ぶりに花音と会う覚悟を決めた。
「せっかくなので、挨拶させてもらえますか」
「承知しました。案内させて頂きます」
 障子がずらっと並んだ長い廊下を歩くと、奥の方から花音と慶介の声が聞こえてきた。何やら不穏な空気を感じていると、丁度応接室からひとりの若い男性社員が気まずそうに出てきた。
 彼は俺の顔を見るなり驚き目を丸くすると、助けを乞うように話しかけてくる。
「三鷹代表、いらしてたんですね。今奥様が商談を引き受けてくれまして……、私が不甲斐ないばかりに申し訳ございません!」
「何があったんでしょうか」
「こんなことを三鷹代表にお伝えするのは恐れ多いのですが、慶介様にとてもうちでは対応できない値段交渉をされまして……。困り果てていたところ、花音様が助け舟を出しに来てくださいました」
「……そうでしたか。うちの者が申し訳ない。いつも御社が正当な見積もりを出してくれていることは分かっています」
「三鷹代表……」
 慶介には年功序列で役職を与えられているが、正直能力に見合わないと感じていた。
 彼は取引先を下手に見る癖があり、それがずっと気がかりだったのだ。
 俺はお手伝いさんと社員の二人に「あとは俺に任せてください」と伝えて帰すと、慶介に対する怒りの感情に任せて、勢いよく障子を開けた。
「随分勝手なことを言ってるな、俺がいない間に」
 ――目の前に広がった光景に、一気に頭に血が昇った。
 あろうことか、慶介は花音の肩を無理やり抱き寄せており、彼女は苦痛に顔を歪めていたのだ。
 信じられないくらい怒りの感情が沸き起こる。今すぐに慶介を殴り飛ばしてやりたい気持ちになった。
 しかし、ここで暴れるわけにもいかず、ギリギリ持ち堪えて、机の上に置いてある資料に視線を移す。
 慶介が提案した企画は、どう見積もっても予算におさまるものではない。ありえない条件の資料を破り捨て、冷たく言い放った。
「バカと話している暇はない。お前はここの担当と役職を外れろ。それから……」
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