離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
第三章

二度目の裏切り

▼二度目の裏切り

 庭のひまわりの花が元気に開花した。
 エネルギッシュな花が咲く時期だというのに、明日からいよいよ同棲再開……。
 黎人さんの手配の早さに流され、あっという間に引っ越す流れとなってしまった。
 彼のご両親も、張り切って色んなベビー用品を用意してくれたらしく、再び私はタイミングを逃すこととなった。
 どうしてこうも、上手くいかないものか。
 彼が帰ってくる前に、もっと色んな根回しをしておくべきだった。
 今は、小鞠に夕食を食べさせてから、居間でひとまず引っ越しの荷物の最終確認をしている。オムツや着替えなどを大きなマザーズバッグに詰め込んで、小鞠が機嫌を損ねないようにお気に入りのおもちゃとおやつも入れ込んだ。
 そういえば、三鷹家のお手伝いさんが数人来てくださると言っていたけれど、何時からどこで合流するのだったっけ……。
 手伝いに来てくれるのだから、それなりのおもてなしを準備しなければ。
 小鞠を母に預けて買い物に行けるのは明日は午前中だけ。できれば、今すぐお手伝いさんの人数を把握しておきたい。それに、他にも細かな点で確認しておきたいことが山ほどある。
「電話してみるか……。どう思う? 小鞠」
「まんまっ、うー」
「そうだよね、これは業務連絡だし、割り切ります」
 おもちゃをよだれまみれにしている小鞠に話しかけて、私は自分の気持ちを一旦整理した。
 黎人さんの電話番号だけは、離婚のことで何かあった時のために控えていた。
 彼に電話をするのは、あの“一件”以来。
 今でも頭に染みついているあの見知らぬ女性の威圧的な声。
 彼への電話には、嫌な記憶しかないけれど、私は意を決して電話番号をタップした。
 一コール、二コール……、無機質な機械音に耳を澄ませながら、私はぎゅっと膝の上で手を握りしめている。
 今までの黎人さんの態度だけを見ると、私に事を裏切っているようには思えないけれど……。
 しかし、その淡い期待は、二秒後にあっと言う間に打ちのめされる。
『あなたが……、奥様ですか?』
「え……?」
『黎人さんと、“政略結婚”された、奥様ですか?』
 あの時と同じ女性の声だ……。
 ガラガラと音を立てて、自分の中で何かが崩れていく。
 明日から同棲再開だというのに、あの人は今、女性と二人でいる。……許せるはずがない。
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