離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~

椿の花

▼椿の花 

 ――今から六年前。
 椿の花が美しく咲く季節に、黎人さんと出会った。
 昔の話なのに、あの時の映像がまるで映画のように時折瞼の裏に浮かんでくることがある。
 私はあの日、たしかに黎人さんに、恋をしていた。

「私が、あの三鷹さんのご長男と……?」
「本当は年齢差的に次男と……と思っていたが、仁君は結婚願望が無いみたいでな」
「はあ……」
 突然お父さんに呼ばれて何事かと思えば、まさに寝耳に水な話を切り出された。
 大学二年生の冬のこと。私は日々お免状を取るためにお花の勉強を積み重ねていて、大学生らしい生活を全く送っていなかった。
 なので、当たり前のように彼氏はいなかったし、たまに告白されるようなことはあっても、一切心が動かなかった。
 三鷹家と葉山家の縁故は深く、結婚相手は親に決められるものだと思い生きていた。それが、私が恋愛ごとに達観していた理由のひとつかもしれない。
「黎人君は三鷹家でもかなり優秀な人材でね。一族以外からの信頼も厚い」
「仁さんのことは、昔挨拶をされたのを覚えていますが……」
「そうだな。あの時は仁君が花婿候補だったからな。黎人君は海外に頻繁に留学していたから、タイミングもそう合わなかっただろう」
 黎人さんのことは、もちろん名前はよく知っていた。写真で顔を見たこともあった。
 親族たちの間で、黎人さんと結婚するのはどこの娘かと、取り合いになっているのも幼いころから見聞きしていた。
 まさかその白羽の矢が私自身に立つだなんて、思ってもみなかったこと。
 動揺したまま父の話を聞き入っていると、あっという間に話が進んでいく。
「来週の日曜に、改めて食事の場を設けた。そこで、黎人君のことを見極めなさい」
「はい……」
「どこぞの見知らぬ男と結婚されたら心配だ。黎人君なら、私も大歓迎だ」
 あの頑固な父がそこまで言うのなら、仕事面では相当信頼のおける人なのだろう。
 来るべき時が来た。
 葉山家を継ぐ身として、ここは断るわけにはいかない。
 私は覚悟を決めて、黎人さんとのお見合いを承諾したのだ。



 お見合い当日。清涼感のある薄い水色の地色に、吉祥文様をあしらった着物を選んだ。
 帯は金彩加工がシンプルに施された、黒地ベースのもの。髪の毛は下の方の位置でゆるくお団子にしてもらった。
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