離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~

愛しい本音

▼愛しい本音

 病院に辿り着くと、入り口前に先ほどの女性が青ざめた顔で立ち尽くしていた。
 私はドクンドクンと不穏に高鳴る心臓を押さえて、一歩一歩彼女に歩み寄る。
 三メートルほどの距離になると、彼女はバッと頭を下げて、「申し訳ございません」と謝罪した。
「……黎人さんは」
「今は、点滴を受けて眠られているようです。大事ではないかと……」
「そうですか」
 思ったよりも、冷静に会話ができているのは、母親のおかげだ。
 私が向きうべき人は、黎人さんだけじゃない。今目の前で顔を青くしている彼女とも、ちゃんと逃げずに話し合わなければならない。
「私は、秘書の鈴鹿と言います。お気づきかと思いますが、電話に二度出たのは私です……」
「そうでしたか」
「私と黎人さんのプライベートな関係は、一切ございません。全て私の一方的な思いで、不快な思いをさせてしまいました」
「え……?」
 不倫ではなかったの……?
 彼女の言葉をどこまで信じていいのか分からないけれど、想像とは違う事実に、私は言葉を失う。
 もしそれが本当だとしても、じゃあどうして私用のスマホに彼女が出たのだろうか。
「電話に出たのは、代表が離席されている時に勝手に出ました。一度目はただの嫉妬で、二度目は、奥様がどんな方なのか知りたくて……」
 そんなくだらない理由で、私はこんなにも振り回されてたの……?
 ショックで立っていられなくなりそう。苦しんだこの約二年間は、いったい何だったと言うの。
 私はずっと勘違いして、黎人さんのことを拒絶していたんだろうか。
 嘘だ。頭が追い付かない。怒りと悲しみで、爆発しそうだ。
 鈴鹿さんは終始バツが悪そうな顔で状況を説明し続けているが、半分程度しか頭に入ってこない。
「政略結婚だと聞いていたので、どうにか入る隙があるのではないかと、そんな気持ちでかき回してしまいました……」
「そう……だったんですね」
「申し訳……ございません」
「黎人さんのことが、好きですか?」
 なぜこんなことを聞いてしまったんだろう。自分でも分からない。
 でも、まだ彼女の本心を聞けていない気がしたのだ。
 鈴鹿さんは私の問いかけにビクッと肩を震わせて、「できれば、まだ一緒に働きたいと思っています……」とか細い声で本音を返してきた。
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