離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
最終章

溶け合う体温

▼溶け合う体温 

「ほんと、一時はどうなることかと思ったわ……」
 そう、呆れ気味に言い放った母が、小鞠の髪の毛を結いながら大きなため息をつく。
 私は申し訳ない気持ちを抱きながら、気まずい笑顔を浮かべている。
 黎人さんと和解してから、三日が経った。
 母には本当に心配をかけてしまったと反省し、私は改めて今までのこととこれからのことを全て報告したのだ。
 母の言う通り、黎人さんとちゃんと向き合って、心からよかったと思える。
 あのまま逃げていたら、私たちはずっとすれ違いながら、別れていたことだろう。
「ご心配おかけしました……」
「本当よ。離婚するかもって聞いたり、黎人さんが倒れたって聞いたり……」
 あの時は気丈に見えた母だったけれど、内心では心配で心配で夜も眠れなかったのだとか。 
 私は母に深々と頭を下げて、「これから二人で子育て頑張っていきます」と伝える。
 そんなことを話しているうちに、小鞠は可愛いタンポポのヘアピンをつけてもらって、ご機嫌な様子だ。母は笑顔の小鞠を高い高いしながら、時計をチラッと見た。
「退院する黎人さんのこと、病院に迎えに行くんでしょう。そろそろ時間じゃない?」
「あ! もう十時……! 小鞠の荷物まとめなきゃ」
「面倒見てるから、今日一日くらい夫婦二人でゆっくり過ごしなさい。再構築直後なんだから」
「さ、再構築……」
 固い言葉に思わず苦笑したけれど、母の提案は正直とても助かる。小鞠は病院が苦手らしく、連れていくと大概泣いてしまうのだ。
「本当にいいの? お母さん」
「いいのよ。再スタートの日なんだから、ちゃんと話し合って」
「うん、ありがとう……」
 母の言葉に甘えて、私は小鞠を預けて黎人さんを迎えに行くことにした。
 私は行く前に小鞠をぎゅっと抱きしめてから、「行ってきます」と伝える。
 最近気づいたけれど、輪郭や口元は黎人さんにそっくりになってきた。
「あー、うー」
「おばあちゃんといい子にしててね」
 お手玉サイズの小さな手をそっと優しく撫でて、私は家を出た。



 病院に着くと、そこには三鷹家のお手伝いさんが二名来ていた。
 色々と荷造りを手伝おうと意気込んできたものの、すでに周辺は片されていて、私がすることはほとんどなかった。
「花音。ありがとう。小鞠は?」
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