図書館司書に溺愛を捧ぐ

接近

あの日から時折図書館を訪れては声をかけてくれるようになった。

建築士という仕事は創造する仕事でとても大変そう。なにかインスピレーションが沸き立たないかと街並みの写真や海外の風景などの本を行き詰まると見に来る。
気分転換なのかな、とも思う。
そんな時には必ず私に声をかけてくれる。

「紗夜ちゃん、もーダメだ。仕事辞めたい」

「何言ってるんですか?大丈夫ですよ」

「あーひらめかない」

なんだかんだと子供のように愚痴る姿は大人に見えていたお兄ちゃんがとても身近な感じに思えた。でもその愚痴る姿でさえとてもカッコいい。
図書館のみんなからはどんな関係なのか?と最近よく問われる。
「幼馴染です」と答えると必ず「紹介して」と言われるようになった。
たしかに、背が高くてすらっとしているけど半袖から見える二の腕は筋肉が見えており鍛えているのかな、と思わせる。人当たりもよく私の周りの人にも最近ではよく話しかけるのを見かけるようになった。
みんなに愛想よく話す基紀さんは他のスタッフからの評判もよく、彼がくると話しかけにいく人さえいる。
私は彼も仕事の一環としてここにきていて、やりたいことがあるのだからとあえて話しかけられない限り話しかけにいくことはない。
でもみんなの積極的な姿をみて胸の奥が苦しい。
基紀さんが私を助けてくれたように人に優しい、気さくな人だってわかっていたはずなのになぜか他の人と笑い合う姿を見ると私の胸はモヤモヤする。
話しかけて邪魔をしてはいけないと思う反面、私にも話しかけて欲しいという相反する気持ちが私の中で渦巻き仕事の手が止まってしまった。
つい基紀さんが他のスタッフと話しているのを見入ってしまった。

いけない、私も仕事中。頬をたたき、自分を戒めた。
私は裏方へ入り、書庫の整理を始めることにした。
あそこにいたら基紀さんの姿が目に入ってしまうから。
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