図書館司書に溺愛を捧ぐ

停止

車に戻り乗り込んだところで私は基紀さんに話を切り出した。

「基紀さん、一昨日好きって言ってもらえてすごく嬉しかった。私も好きです。でも今のままでは付き合えません」

「え?どういうこと?」

「基紀さんが好きです。基紀さんは私を守ってくれるって言ってくれました。でもそれでいいのかなって。守ってもらうだけじゃなくて自分でも立ち上がる力が必要じゃないのかなって。今までもそうしてきました。中学に入る時に前髪を切りました。私が目の前から逃げずに頑張ろうという決意の証として。今まで前髪に隠れていた自分を終わりにするために。私にとってそんな些細なことがどれだけの決意だったかわかりますか?」

「分かるよ。あの時の紗夜ちゃんが再開して今の紗夜ちゃんになっていることにどれだけ驚かされたかとか。それでも紗夜ちゃんの根底には変わらない優しさが、それに話すと面白いユーモアなところが溢れていて惹かれたんだ」

「ありがとう。でもね、私は今のままだと基紀さんの隣で胸を張って並べない。基紀さんの隣にいられるだけの自信も基紀さんを他の人に取られないだけの魅力もないの」

「魅力なんてない訳ないだろ。あるから俺は紗夜ちゃんが好きだし、付き合いたいと思ってる」

私は首を振った。

「ごめんなさい。今日基紀さんの会社の人を見て、みんな自信に満ち溢れていて輝いて見えたの。私の仕事を卑下する訳ではないけど、でも私の頑張りが足りないと思ったの。胸を張って仕事したいと思った。今のままだと流されるままなの。基紀さんの職場の人たちが私を見てどんな顔してたか分かる?そんな目にも打ち勝つだけの自信が欲しい」

基紀さんは私の手に自分の手を重ねてきた。

「紗夜ちゃん、俺がいると君の自信はなくなるのか?」

「そうじゃないの。基紀さんに釣り合えるように努力したいの。このままだと基紀さんに隠れるように守られるだけの存在になっちゃう。そんな自分は嫌なの」

「俺は紗夜ちゃんのそばにいたい。その努力を隣で見ていたらダメなのか?」

「私は、絶対に甘えたくなる。逃げ道を作りたくないの」

「紗夜ちゃんは強くなったな」

「強くならないとダメだってやっと、やっと立ち上がったんです。まだ苦手なことも多いけど、それをここまで何とか克服してきたんです」

私の手を力強く握りしめながら基紀さんは頷き、見つめてきた。

「なら見守ることにするよ。見守るならいいよね?」

そんな提案に驚いた。
嫌いになられたらどうしようって思ったけど、こんなこと言い出した私のことを見守るって言ってくれるの?

思わず涙が頬を伝う。
手で拭おうとするが基紀さんに握られていてハンカチが出せない。
手を離してもらえない。
ひどい顔で泣いている自覚があり、恥ずかしい。
離して欲しくて上目遣いに基紀さんを見上げると基紀さんは目元にキスを落としてきた。
涙を拭き取るように唇が当たり胸の奥が疼いてくる。ぎゅっと締め付けられる。
柔らかい唇が絶えず私の涙を拭きとる。
最後に私の手を離してくれたところで背中に手が回り抱きしめられた。
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