悪役令嬢三人娘奮闘記
プロローグ
 

 初夏の麗かな日差しが清々しく、庭園には遠い東の国が原産の見事な夏告花(アジサイ)が咲き誇っている。土の栄養値を変え、青から紫に変わり鮮やかな赤と見事なグラデーションを作り出し、見るものを楽しませる。
 他の夏に咲く花々もコントラスト豊かに配置されておりとても瑞々しく庭師のセンスが光る。

 この素晴らしき庭園のあるアイルーゼン公爵邸の応接間では、次代を担う有望な若者達の伴侶最有力候補として名が上がっている、上位貴族令嬢三人のお茶会が行われようとしていた。

 招待を受けたのはミレイユ・グラン筆頭伯爵令嬢と、カテリーナ・ドリュー侯爵令嬢だ。

「本日は、私主催のお茶会へご参加いただきありがとうございます」

 そして、このお茶会の主催を担っているは、オリヴィア・アイルーゼン公爵令嬢である。三人とも同じ歳で、今年十四歳になったばかりだ。

 彼女達は二年後の十六歳に共に王都立学園へ入学し学友となる予定である。そして、卒業すると互いの家格に相応しい高貴な身分の夫に添い従うと言う同じ運命にあるのだ。

 男には男の戦場がある様に、女には女の戦場(付き合い)と言うものがある。それは主に情報戦だ。
 情報は一人では集めるのは難しいため、女性は自分達の交友関係を広げ派閥同士でお茶会や夜会を頻繁に開き、そこで見聞きした情報を元に流行を作り出したり、夫に有益な情報を伝えて商売の役に立てたりしていた。

 そして、彼女達が入学予定である二年後の学園入学予定生徒の華々しさは目を見張るものがある。

 王位継承権一位の王太子を筆頭に、宰相の嫡男、聖騎士団第一近衛騎士団長の長男、大陸を股にかけるエウレカ大商会会頭の孫息子、王国魔法師団総督の長男など錚々たる面子が新入生として入学予定だ。

 オリヴィアはその類稀な美しい容姿と魔力の高さから次期国王アレクセイの正妃候補として他の追随を許さなかった。
 因みに、聖騎士団長の長男はオリヴィアの双子の兄である。

 加えて、ミレイユやカテリーナも共に見目も家柄もよく、将来上位貴族との縁組確実な為、将来王妃となったオリヴィアを支えてもらえる様、今のうちから話し相手として公爵邸へ招待する事になったのだ。

 ♦︎♦︎♦︎

「カテリーナ・ドリューでございます。アイルーゼン邸の庭園は本当に素晴らしいですわ。異国の花は育てるのが難しいと聞きますのにこんなにいきいきと咲いて」
「ミレイユ・グランでございます。グラン家自慢のお茶菓子をお持ちしました。お二人のお口に合えばいいのですが……」

 この世界の身分差はハッキリしており、最上位貴族の娘であるオリヴィアが一番上、次にカテリーナ、ミレイユと続く。

 下の者は上の者から話しかけられるまで言葉を発したり目線を合わせてはならず、子供とはいえ例外はない。それがまだ出来ない子供はそもそも家から出してもらえない。

 まずは立ったまま三人の名前をミレイユ、カテリーナ、オリヴィアの順に名乗り、メイドにお茶をサーブしてもらって下がらせる。家に招いたオリヴィアが毒味がてらに一口お茶を飲み、他の二人に勧めてから初めて三人の目が合うのだ。

 事が起きたのは三人の目線があったその刹那だった。
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