スパダリ外交官からの攫われ婚


「ええと、それじゃあ朝食でも作りましょうか?」

 (こと)はとりあえず話を変えようと加瀬(かせ)にそう話しかける。このまま気まずい雰囲気ではいたくないし、彼の機嫌もお腹が膨れれば直るのではないか? なんて単純な理由だった。

「ああ、そうだな。昨日は出掛けられなかったって誰かが拗ねてたし、ちゃんと連れて行ってやらないと」

「……意地悪です、志翔(ゆきと)さんは」

 琴が気遣っているのに、そうやって彼女を揶揄う加瀬は性格が悪い。それでもいつも通りの加瀬に戻ってくれて琴はホッとしている。
 琴は先に洗面所を借り顔を洗うと着替えてキッチンへと向かう。交代で洗面所へと入っていく加瀬の欠伸をする姿がちょっと可愛いと思いながら。

 先に何か作って驚かせようと思った琴だったが、まだこの国の食材の調理方法がよく分からず結局加瀬を待って二人で朝食を作る事になった。
 食事を済ませた琴は加瀬に言われて外に出る準備をしに部屋へと戻る。昨日加瀬が買ってきてくれた服の中から、爽やかな水色のシャツと白のスカートを選んで身に付けた。

「これで少しは大人っぽく見えるかな?」

 大人っぽい加瀬の隣を歩くのに、琴は少しだけ気合いを入れてしまう。彼女がなぜそんな風に思ってしまうのかには、まだ気付かないままで。


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