スパダリ外交官からの攫われ婚


 (こと)の言葉に義母は片眉を上げて、信じられないと言わんばかりの顔をする。信じられないというより、信じる気が無いのかもしれない。

「あら、本当? だけど送迎の車でも加瀬(かせ)様を助手席に座らせたりして、いったい何を話していたのかしらね?」

「あ、あれは加瀬様が助手席が良いとおっしゃられただけで、別に何も話してなんか……」

 車内で二人はほとんど無言だった。あがり症の琴は異性と話す時はいつも緊張して言葉少なになる、そんな彼女が加瀬と上手く話せるわけもなく黙って運転するだけだった。
 
「どうだか。やっぱり大事なお客様は琴さんに任せるのではなく、責任感の強い私の子に頼まなくてはいけないみたいね」

「……」

 悔しくて琴はギュッと拳を握りしめる、噛みしめた唇が痛いがそれもこの感情を抑えるためには必要だった。

「もういいわ、さっさと仕事に戻って遊んでた分を片付けて頂戴」

 言いたいことは言い切ったとスッキリした顔をして義母は琴を置いてその場を後にする。
 残された琴は悔しさに震える拳で目元を拭うと、何事もなかったかのように仕事に戻ったのだった。


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