スパダリ外交官からの攫われ婚


 昼食を終えた(こと)加瀬(かせ)はそのまま美術館へと向かい、有名な絵画や彫刻などを見学した。気になるものがあれば、すぐに加瀬が来て説明してくれるので美術品に疎い琴でも十分楽しんで見て回ることが出来た。
 その後二人はリュクサンブール公園まで足を延ばし、色とりどりの美しい花を見て癒された。琴はスマホを取り出し一生懸命色んな種類の花を記念に残そうと頑張っている。

「ブレてるぞ、もっとしっかりカメラを持って撮らないと」

 カメラを持って構える琴の後ろから加瀬が声をかけるが、夢中になっている彼女は全く聞こえていない様子。だが足元の大きめの石に気付かず、そのまま躓き転びそうになる琴を見て慌ててその腕を回す。

「きゃ……え、あれ? 志翔(ゆきと)さん?」

 後ろから回された腕に身体を預けていると気付いた琴が慌てて離れようとするが、加瀬は落ち着いた様子で彼女を立たせるとその手からスマホを奪う。

「琴を待っていたら日が暮れそうだからな」

 そう言って加瀬はスマホの画面を確認すると、そのまま何枚もの写真を撮っていく。すぐにスマホは琴の手に戻されたが、画像ホルダには綺麗な花の写真がたくさん増えていた。

「ありがとうございます、これ写真にして父に送ってもいいですか?」

「琴らしいな、好きにすればいい。俺はあんたのために撮っただけなんだから」

 少し照れているのか琴から顔を背ける加瀬。そんな姿が可愛いと思ってしまって、琴は嬉しそうに微笑んだ。


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