スパダリ外交官からの攫われ婚
攫われて育つのは淡い恋心で


「はあ、流石に一日歩くと疲れるな。先に風呂の準備をしてくるからすぐに入れるように着替えて来るといい」

 ほとんどの荷物は配送を頼んだが、食材などは自分たちで持って帰ってきた。まだ空腹は感じていないが、夕飯は二人とも家で食べるということにしたから。
 加瀬(かせ)がバスルームへと入っていったのを確認し、(かせ)は買ってきた食材を冷蔵庫へと入れていく。まだまだ彼女が見たこともない野菜などもあるが、加瀬が調理の仕方を教えると言っていたので大丈夫だろう。

「あ、早く着替えて来なきゃ」

 片づけを済ませると琴は自室へと戻り、着替えを済ませる。加瀬の選んでくれた服を丁寧に畳んでクリーニングに出すために置いておく。
 買ってもらったアクセサリーもジュエリーボックスに入れてそっと引き出しの中へと仕舞う。

 夢のような一日だった、楽しくて時間があっという間に過ぎて。加瀬と出会う前の自分の生活からは考えられないような、とても充実した気分で。
 全部加瀬が琴を攫ってくれたお陰だ、あまりの強引さに最初はとても戸惑っていたが。

「琴、風呂の準備が出来た。ゆっくり浸かって一日の疲れを取るといい」

 ドアをノックして扉の向こうから加瀬がそう声をかけてくる。彼も疲れているはずなのに、こうしてことを優先して先に休ませようとしてくれるのだ。
 そんな加瀬の優しさに琴の胸がまたキュウッと音を立てているようで、何とも落ち着かない気分になっていた。


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