スパダリ外交官からの攫われ婚
「あの、加瀬さん? そろそろ降ろしてもらっても……」
いいんですよ? 琴はそう言いかけたが、その言葉は加瀬のとんでもない発言によって止められる。
「それじゃ、琴は俺が攫わせてもらう。色々な手続きについては知り合いの弁護士に連絡するよう伝えてあるから、そいつに聞いてくれ」
「はい、琴の事をお願いします」
加瀬に深々と頭を下げる父を見ながら、琴の頭の中は大混乱していた。芝居だと思っていた加瀬の言葉は嘘ではなかったらしく、彼は本気で琴をどこかに攫って行くつもりらしい。
攫って欲しいと望んだのは事実だが、いざこうして攫われる立場になるととんでもない事を口にしてしまったと思うばかりで……
「か、加瀬さん! 私をどこに連れて行くつもりなんですか? 私なんて食べても美味しくないんですよっ!」
「あんたが美味いか不味いかは俺が決める。これから俺達が行く先は……パリだ」
当然だという表情でそう言った加瀬だが、その言葉に琴はキャパシティーオーバーしたのかクラリと眩暈がしてそのまま気を失ってしまった。