スパダリ外交官からの攫われ婚
攫われた先に何がありますか
「おい、いい加減に目を覚ませ」
心地の良い低音ボイスが琴の耳元で聞こえてくる、聞きなれない声音なのにやけに気持ちが落ち着くのはなぜだろう? ふわふわと優しい夢の中を漂う琴は、まだ目が覚めないでと願ってしまう。
彼女をいい様に扱い、利用しようとした継母や姉から解放された夢を見たのだ。もう少しこの幸せに浸っていたい、そう思うのは当然なのかもしれないが……
「起きないのなら俺にも考えがある。いいんだな、琴?」
――この声、もしかして加瀬さん!?
不機嫌な声の主が誰なのか分かった琴は、夢の中から現実世界へと一気に引き戻される。ガバリと起き上がった琴のすぐそばに加瀬の端正な顔立ちがあって、思わず後ろへと下がって後頭部を思いきりぶつけてしまった。
「え? どうしてタクシーに……」
「空港に向かっているからだ」
琴は加瀬と一緒にタクシーに乗っていた。先ほど琴が後頭部をぶつけたのは後部座席のドアガラスだったようだ。
琴は加瀬にどうしてタクシーに乗っているのかを尋ねるが、彼に目的地を告げられただけでは意味が分からない。