辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する
第二章 アハマスでの生活

第一話 決心

■ 第二章 アハマスでの生活

■ 第一話 決心

 王都のタウンハウスを出発して十一日目、サリーシャは目の前に見えてきた景色に目をみはった。

 長く続く森を抜け、ようやくたどり着いた辺境の地方都市アハマス。その中心にそびえるのは想像を超えた大きな屋敷だった。
 小高い丘の上に立つ灰色の石造りの建物は遠目で見ても、サリーシャの知る、どの貴族の屋敷よりも大きい。周囲は石を積み上げて造った高い塀に囲われており、塀の上には見張り台らしきものも見える。
 屋敷自体の外壁もぴったりとした石を積み上げた強固なものであり、ちょっとやそっとの攻撃では崩れることはないだろう。もはや屋敷というよりは、要塞と言った方がしっくりとくる構造だ。

 通り過ぎる町並みに目を向ければ、やはり王都よりはだいぶひなびている。しかし、建ち並ぶ店舗の看板にはパン屋、仕立屋、飲食店、アクセサリー屋、布屋など様々なものがあり、領民が生活するうえでは不便はなさそうに見えた。それに、サリーシャが幼いころに過ごした村と比べたら、ここは都会と言っていいほど栄えている。

 少し視線をずらせば、子供を連れたご夫人が笑顔で買い物をしている姿や、帽子を被った農夫が手押し車で野菜を運んでいるのが見えた。皆、サリーシャが乗る馬車に気付くと小さく頭を下げて、敬意を表していた。小さな子どもがこちらを指さし、大きく手を振っているのも見えた。
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