あの日溺れた海は、
12.残酷な現実
クリスマスイブが終わってから流れるように年瀬になった。


今年一年は特に色々あった、気がする。

感情が大きく揺れ動いた一年だったなあ。


と、物思いに耽ろうとしても、浮かぶのはあの日の先生のぎこちない笑みだけで、とんでもなく切ない気持ちになって頭を振って頭の中から消した。
 
 
「さっむい…。」


今年最後の一日。

お母さんにお遣いを頼まれたわたしは、外へ出ると身震いをしてマフラーに顔を埋めた。
 
 
「…あー!もうわかったよ!行ってきます!」
 
 
そんな声が斜め向かいの家から聞こえてきて、それからドアが閉まる音と同時に亮が少しムッとした様子で門から出てきた。
 
亮はわたしに気づくと「お。」と小さく声を上げて手を挙げた。

「久しぶり。」

わたしも同じように手を挙げるとそう言った。

亮が意図的にそうしたのか、たまたまなのかはわからなかったが、修学旅行以来、亮とこうして2人きりで顔を合わせるのは初めてだった。
 

「はなもお遣いか。」


わたしの手からぶら下がるエコバッグを見ると亮がニカッと笑ってそう言った。


亮のいつもと変わらない様子にホッとしながらも「うん、亮も?」と答えた。
 

「俺も。俺は大掃除が終わってなくて忙しいのに、酷いよな。」
 

「大掃除は普通昨日で終わらせるものじゃない?サボってたんでしょ。」



少し足早に亮に近づいて隣に並ぶとそう笑いながら言った。

亮は図星だったようで「うるせー。」と拗ねた子供のように呟いた。そんな亮が面白くてふふっ、と笑うと、亮もつられて笑った。
 

< 302 / 361 >

この作品をシェア

pagetop