あの日溺れた海は、
13.空っぽの心
部室につくと机の引き出しの奥から原稿用紙の束を取り出した。



『きみと見た海』


わたしがコンテストに出すために執筆を始めて書きかけだった小説。


ひとつの恋を経験した今のわたしならこの続きがきっと書ける。


わたしは椅子に掛けると鞄の中から筆記用具を出して、それから黙々と書き始めた。


あの時はあんなに書き表すことが難しかった感情も今ならすらすらと書けていく。


こんな爽快感久しぶりに感じて楽しくなって気づいたら下校の時間になっていた。


書きかけの原稿を鞄の中に入れると部室の鍵を閉めて職員室へ向かった。


おじいちゃんの向かいの席に人がいないことを確認すると足早に鍵を返却して職員室を後にした。


職員室から昇降口に向かう渡り廊下でふと視線が二階の奥の教室に向いた。


明かりがついていることを確認すると勝手に気まずくなって、それから切なくなって、涙がじんわり浮かんだ。


それから勝手に感情を揺さぶられている自分に嫌気がさして早歩きで廊下を過ぎた。

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