あの日溺れた海は、
14.あの日溺れた海は、
パチリと目を開くと、カーテンの隙間から光が漏れて部屋中を照らしていた。


昨日と同じ朝なのに、もっと光り輝いて見える。


世界がもっと鮮明に見える。不思議な感覚。

ベッドから身体を起こして足を床につけると小さく身震いした。2月初旬は1年で一番冷え込む。

それでもいつもだったら布団の中でぐだぐだとしょうもない葛藤とたたかうわたしも、今日だけは目覚めが良かった。


洗面所に行くといつものように顔を洗った。

水の冷たさが顔に染みて全身に広がっていく。

まだ少し眠っていた目がスッキリと開いて鏡の中のわたしを見つめる。


少し薄くなった目の下のクマに、普段よりいい血色。
体と心って繋がっているんだなとしみじみと感じた。



『好きだ。』



不意に夕陽に照らされた先生とその声が脳内に鮮明に浮かび上がって更に頬を上気させた。



『好きです、ずっと』



幸せな気持ちも束の間、涙でぐちゃぐちゃになった顔でそう言ったわたしも思い出して鏡の前で項垂れた。


せっかく好きって言ってもらえたのに、あの顔を見てやっぱなし、とかないよね…。さすがに。


そう言い聞かせたものの少し不安になりながら支度を済ませて学校へ向かった。

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