天才脳外科医の愛が溢れて――もう、拒めない~独占欲に火がついて、とろとろに愛されました~
12、恐怖は忘れた頃にやってくる
十日後の夜、私は仕事が終わると樹と焼肉屋に行った。
店員に奥の個室に案内されるが、そこに兄がいて目を大きく見開く。
「あれ?お兄ちゃん、なんでいるの?」
思わず声を上げる私を見て、兄は淡々と答えた。
「樹に呼ばれた」
「え?樹が?」
意外な話を聞いて次に樹に目を向けたら、彼はコクッと頷く。
「そう。たまたま連絡したら、今日の夜空いてるって言ったから、一緒に食事するのもいいかと思ってね」
樹と兄はなにやら連絡を取り合っているようなのだが、内容については知らない。
樹に聞いても『茉莉花ちゃんの好きな食べ物を聞いてたんだ』と誤魔化される。
「今日、田辺さんのお祖母さんが退院したから?」
樹にそう聞きながら兄の向かい側の席に腰掛ける。
今日の午後、田辺さんのお祖母さんが無事に退院したから私も樹たちもこの日に田辺さんがなんらかのアクションを起こしてくると思ったのだが、結局なにも起こらなかった。
香織さんの話では田辺さんはお祖母さんの退院に立ち会わなかったらしい。
< 203 / 238 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop