S系敏腕弁護士は、偽装妻と熱情を交わし合う
お返しはとろけるほどに甘く


この頃、どうもおかしい。
菜乃花は向かいの席で朝食のスクランブルエッグを口に運ぶ朋久を盗み見ながら、トーストにかぶりついた。

おかしいのは、ほかでもなく朋久である。

遊園地デートしてから約一週間、朋久との距離が心なしか縮まったように感じるのだ。

キスはたったの一度だけ。あれ以来そんな事態は訪れていないし、具体的に言葉に表すのも難しいが、たまにそういう雰囲気が舞い降りそうな気配がある。

ホームシアターでふたり並んで映画を観ているとき、一緒に料理をしているとき、それとなく朋久が触れてくることがあるのだ。

それは手だったり肩先だったり、あるいは髪の毛だったり。さり気ないから勘違いかと疑っていたが、今にも抱きしめられるんじゃないかと菜乃花は気が気でなく、同時にドキドキと胸を高鳴らせている。

菜乃花に向けられる彼の視線も総じて優しい。――いや、この際甘いと言ってもいいような気がする。

菜乃花が一方的に好意を抱いているからこそ、わずかな彼の振る舞いの違いに気づくもの。勘違いだと頭を振り振りいるが、少しでもいいから朋久の気持ちが自分に向けばいいのにと願わずにはいられない。
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