みうとうみ               ~運命の出会いは突然に~
 そのまま家に帰るのは、なんとなく物足りなかったので、いつもの降り口とは反対側にある本屋に立ちよることにした。 

 横断歩道の前で信号待ちをしていたそのとき。
 目が一点に引きつけられた。
 向かいで待つ人のなかの、栗色の髪に。


 いた。


 信号が青に変わったとたん、その人めがけて走りよった。

「あ、あの……」
「?」
 彼はきょとんとした顔で、こっちを見ている。

 わたしはトートバッグから傘を取りだした。
「これ、ありがとうございました」

 そう言って、頭を下げた。

「ああ、あのときの」

 そのとき……
 ブッブーーーーーッ!
 クラクションの大音量。

 あっ、ここ、横断歩道の真ん中だった。

「おっと、やべ。あそこまで走ろう」
 そう言って、わたしの二の腕の辺りを掴むと、せーの、と走りだした。

 彼はわたしの速度に合わせて走ってくれた。
 二の腕をつかんだまま。
 走りながら、中学生のときにフォークダンスで男子と手を繋いだとき、照れくさかったことを思い出していた。
 
< 16 / 132 >

この作品をシェア

pagetop