みうとうみ               ~運命の出会いは突然に~
 でも、この人の前では、自然体でいられる。
 そんな空気を醸し出してくれる人だった。

 お茶漬けを食べて、少し元気が出たので、せめてコーヒーぐらい入れようと席を立つと、彼が大声を出した。

「あっ、もうこんな時間か。やべ、帰るわ。おれ。用事があったんだ」

 時計は11時を指していた。

 彼はごそごそとリュックを探って携帯を出しメッセージを打ち始めた。

「じゃ」
「ちょっと……」

 間を置かずに電話の呼び出し音。

「ああ、おれ、ごめん。今から行くから……うん……」

 玄関で靴をはきながらこっちを向き、片手をあげて微笑むと男は出ていった。


 行っちゃった。
 なんて、あっけない幕切れ。

 結局、名前すら訊いていなかった。

 今さらながら、そう気づいた。
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