魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
5.待っていてください
 その日の夕飯は、レインがとってきたきのこを使った料理だった。きのこのスープにきのこの炒め物、きのこのご飯というきのこ尽くし。きのこを採ることも楽しかったのだろう。どれだけ採ってきたのかと問い詰めたい。この料理がそれを物語っている。

「お兄様。これ、私が作ったんですよ。食べてくださいね」
 料理をしたことも楽しかったのだろう。そしてその料理を誰かに食べてもらうことも。
「おばあさまに教えてもらったんです」

「そうか。では早速いただくとしよう」
 言い、三人で食事の前のお祈りをする。これはこの大陸に昔から伝わる儀式のようなもの。それが終わると食事なのだが、レインはライトが食べる様子をじっくりと見てくる。そしてそのレイン自身は何も食べようとしない。

「どうですか?」
 レインの目は不安そうにライトを見ていた。

「うん、とっても美味しい」
 ライトはきのこご飯を飲み込んで答えた。

「本当ですか?」
 じとーっとレインはライトを見ている。妹に激甘な兄の言葉はどうやら信じられないらしい。
「本当だ。疑うならレインも食べてみるがいい」

「わかりました」と言いながらも、疑わしそうにライトを見つめている。なかなか食事に手をつけようとしないから、ライトは自分のご飯を少しすくって、レインの口元に運んだ。彼女は雛鳥のように口をパクっと開けて、それを頬張る。

「あ、美味しいかも。よかった」
 そこでやっと表情を緩めた。よっぽど緊張していたのだろう。料理をするのも、それを誰かに食べてもらうのも、彼女にとっては初めてのことである、とライトは記憶している。
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