魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
7.知らなかったのか
 北の森の魔物討伐へと赴いていた一行が戻ってきた。だが、今回はいつもより負傷者が多いということで、回復魔法が使える研究所所属の魔導士たちも駆り出された。何より、騎士団の人たちの負傷が激しいらしい。救護院に駆けつけると、熱気と血の匂いが立ち込めていた。
 ライトは見知った顔を見つけた。いつもくだらない言い合いをしている相手。その彼でさえ、そのローブが血や泥でまみれている。

「おい、トラヴィス。何があったんだ?」

 ゆっくりとトラヴィスはライトに視線を向けた。
「ああ。ライトか。悪いが、隣の部屋の回復を頼む」
 覇気の無い顔。

「ああ。わかった。だが、今回はなぜこんなことに?」

 ライトの問いにトラヴィスはぐっと拳を握りしめた。

「レインがいなかったからだ」

 その答えに驚いて、ライトは再びトラヴィスの顔を見た。

「私たちがどれだけ彼女に頼っていたのかということを、今回は実感させられた。彼女がいなければこのザマだ」
 ふっ、とトラヴィスは息を吐いた。
「ところで、レインは?」
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