魔力を失った少女は婚約者から逃亡する
8.また来てもいいですか
 レインが祖母の元へ来てから、約十日が経とうとしていた。こちらの生活にもすっかり慣れ、とまではいかないが、祖母に教えてもらいながらなんとか自分のことは自分でできるようになったいた。掃除も洗濯も料理も。できるようになるのが何よりも楽しいし、祖母は事あるごとに褒めてくれる。それが何よりも嬉しかった。
 褒めてもらえるということが、こんなにも嬉しいことであることを、初めて知った。

 思い返せば、学園のときも、そして魔導士団に入団した後も、何かできてもそれが当たり前という風潮で誰も褒めてくれなかった。
 魔力無限大なんだから、当たり前だろ、と。前魔導士団長の娘なんだから、当然だろ、と。
 それを思い出し、レインはふぅと息を吐いた。

「あら、レインちゃん。疲れたかい?」
 祖母は穏やかな笑みを浮かべている。

「いいえ、大丈夫です。ちょっと考え事をしていて……。こちらのお掃除ももう少しで終わります」

「そうかい、そうしたら今日は集落まで行ってみるかい?」

 集落。つまり、他の人たちが住んでいるところ。
 祖母はけして集落の人たちと仲違いをしたからこんな山奥の辺鄙な場所に住んでいるわけではない。薬草を採るのに便利だから、という理由。だから、たまには集落にまで足を伸ばすこともあるらしい。

「はい」
 レインは嬉しくなって、力いっぱい頷いた。ここには自分のことを知っている人はいない。だから、それが余計に嬉しい。
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