つらい恋なんか投げ捨ててやる!
ワインなんて独りで飲むものじゃない
 忙しい、無理を言うなと渋い顔をする彼に、満開の桜の下をドライブしたい、と我儘を言った。

 毎年、年度末のこの季節は、会社という組織に属している人間にとって非常に忙しい時期で、プライベートでのんびり花見などした記憶がない。

「お花見」と称するイベントを行う会社もあるが、それは社員のプライベートの時間を使った会社としてのレクリエーション活動の一環である。

「宴会なんて所詮は仕事の延長なんです」手に取ったワインのラベルを確認しながら彼に言った。

 マルベックのカオール。わたしのお気に入りだ。リーズナブルだが、どっしりした重厚な味わいの赤ワインで、ほとんど黒に見えるワインの色から「ブラックワイン」とも呼ばれている。
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