クールな社長は政略結婚したウブな妻を包容愛で満たす
歩き始めます
金子理江が本間家に居候し始めて、そろそろ3か月が経とうとしていた。
いっこうに就職先は見つからず、屋敷から出て行く気配はない。
あれを見てから、田辺は益々理江の行動に目を光らせていた。
確かに就職先が無いと言っている割に、時折ブティックの紙袋をぶら下げて帰ってくる。
柊哉が援助しているのは間違いないだろう。
だがあれ以来、屋敷での接点は無さそうだ。
『HONNMA』で働いている上垣司に聞いてみるべきだろうか…
家政婦として出過ぎてはいけないが、和優を悲しませたくなかった。
和優は、今のところ二人の関係に全く気がついていない様子だ。
田辺自身、自分の気のせいであって欲しいと願っていたが
金銭のやり取りを見てしまうとそうも言っていられない。
この事実を和優にだけは知られたく無くて、田辺も行動に移せなかった。
幸いな事に、理江が朝寝坊で午後からしか活動しないから、
和優と理江は屋敷の中でも会う事がほとんど無い。
勿論、田辺も会わせない工夫をしているが。
この屋敷に住み込みで働くようになってから、本間夫婦の事が気にかかる。
柊哉は仕事の忙しさに逃げているが、妻が気になって仕方ないようだし
和優は何か思いつめている様で、色々と田辺にも隠れて動いている。
もちろん、夫の事は何より大切なのだろう。
たまにしか家にいない夫に向ける切ない視線は、田辺の胸を打つ。
『自分が何とかしなければ…』
田辺は密かに、使命感に燃えていた。