忘れたとは言わせない。〜エリートドクターと再会したら、溺愛が始まりました〜



帰国してからも普段通り仕事に邁進しつつも、どこか胸の奥に穴が空いたような喪失を感じていた。


傑に"お前の従姉妹の名前を教えてくれ"と聞けば良かったのかもしれない。


せめて、あの日の夜にお互いの名前くらい聞いておけば良かったのだ。


それか、一夜の過ちで全てを忘れられれば良かったのだ。


そんな矛盾を感じながらも仕事に於いては順調そのもので、たくさんのオペをこなしていく内に実績も増えていった。


珍しい症例の論文を医学会に提出する機会もあり、俺の名前が次第に広まっていく。



「最近調子いいらしいじゃん」



院内で偶然会った傑に肩を抱かれ、



「……んなことねぇよ」



とそれを振り解く。


それからあっという間に三年の月日が経過して。


ある日、医局で仮眠を取った後に急に外に行く用事ができ、閉まる寸前のエレベーターに飛び乗った時。


……唯香と再会した。


あの時の女性だと分かった瞬間、俺の中で何かが駆け巡ったような衝撃を受けた。


今すぐにこの手で抱きしめて、今度こそ逃さないように俺の腕の中に留めておきたい。そんな衝動に駆られた。


しかしそうもいかないため、半強制的に連絡先を手に入れて強引に食事に誘ったのだった。


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