月曜日。
私は朝から資料をまとめ始めた。
今回のことを踏まえサービス内容について深めていけたらと思うことが気がついたことをピックアップしはじめた。
ホテル自体のリノベーションについてもまとめた。
午後から加賀美くんとのすり合わせがあるため早めに食事をしようとするが朝から頭が一杯でコンビニに寄ってくるのを忘れてしまった。
仕方なく財布を持ちコンビニに向かうがそこで一番会いたくない人を見かけてしまった。
悠介だ……
少し痩せたように見える。
私は呆然と立ち尽くし、その場を動くことができなかった。
同じ会社にいる限りいずれは会うと思っていた。でもこんなに早く顔を見ることになるなんて。どうしよう。
この場を去りたいが足が動かない。

私が動けずにいるととうとう悠介に気がつかれてしまった。

目が合うと悠介はこっちへ向かって歩いてきた。

「奈々美。ちょっと来て」

私は悠介に手を引かれ物陰へと連れていかれる。

「奈々美、ごめん。当日まで言い出せなくて無責任なことをした。俺直接謝ることもしなくて本当にごめん」

「ご、ごめんで済むの?わ、私……ど、どうして……いったら……」

はぁ、はぁ……
息が苦しい。
息が吸えない。
はぁ、はぁ……
手の震えが治らない。
私どうなるの?
苦しくて不安にのみこまれる。

「な、奈々美?大丈夫か?」

私は立っていられずに座り込み、震える手で胸を押さえる。

苦しい……

手がガタガタと震え、止めることができない。
徐々に手の痺れを感じ始めてきた。
息が吸えない。
眩暈がする。

「奈々美!」

悠介の声が遠くで聞こえるが私はもうこの声を聞きたくない。
意識を手放そうとした時に今度は違う声が聞こえてきた。

「おい、何やってるんだよ!槇村、大丈夫か?」

丸まっている私の背中を包み込むように背中をさすられる。
この匂い、加賀美くん?

「槇村、苦しいのか?」

私は頷く。

「息を吐くんだ。一度吸ったらゆっくり吐き続けろ。吸えないから苦しいんじゃない。ここで俺が付いてるから大丈夫だ。一度息を吸ったらゆっくり吐くんだ。大丈夫。ほら、一度吸って。大丈夫、大丈夫。ゆーっくり吐いて……」

私の背中をさすりながら呼吸の誘導をしてくれる。
安心感のあるその声に促され、どれだけここにいたのだろう。
手の震えが止まってきて痺れがとれてきた。

「大丈夫、大丈夫。槇村、吸ったらゆーっくり吐くんだよ。フーって吐ききろう」

意識が遠のきそうだった私は徐々に頭がはっきりしてきた。
私は加賀美くんの左腕にしがみつき握り締めていた。
加賀美くんの右手は変わらず私の背中をさすり続けてくれている。
この姿はまるで抱きしめられているような格好だった。

「阿川、お前なにしたんだよ!なんでこんなことになってるんだよ」

「いや、奈々美を見かけたから一言謝っていたんだ」

「何故今なんだ。謝るには遅いだろ。今さら謝られても槇村は許すと思うのか?今になって謝るのはお前の自己満足のためだろ。またこんなことになってお前は何したいんだよ。槇村のために顔を出すなよ」

悠介は言い返す言葉もなく小さな声で「ごめんな」とだけつぶやきその場を去った。

どれだけここにいたんだろう。

「か、加賀美くん。ごめんね。迷惑かけて。もう少しここにいたら戻るから加賀美くんは戻って」

「バカ。お前を置いていけるわけないだろ」

「迷惑かけてごめんね」

「迷惑じゃないからもう少しここにいよう。寒くないか?」

「だ、大丈夫」

悠介が物陰に連れ出したのが幸運となったのかここには誰も来ない。

私たちは壁に寄りかかり隣同士で並んで座った。

私は加賀美くんの左腕を掴んだままだったことに気がつき手を離した。
すると私の手の跡がくっきりと残っていた。
あまりの苦しさに力の限り握りしめていたようだ。

「加賀美くん、ごめん。私思いっきり握ってた。ごめんね。痛かったよね」

「大丈夫だよ。このくらい」

そういうと腕をワイシャツの中に隠してしまった。

私はなかなか立ち上がることができずにいると加賀美くんは少し待つようにいいこの場を離れた。

数分で戻ってくるとコンビニの袋をぶら下げていた。

温かい飲み物がこれしかなかった、とカフェオレを持っていた。砂糖が入っていて甘さが心を穏やかにさせてくれる。

「加賀美くんありがとう。とても、助かった。苦しくて死ぬんじゃないかと思った」

「お前を絶対に死なせないよ。俺がお前を守ってやるから大丈夫だから」

え?
どういうこと?
私は意味がわからないまま立ち上がらされ、腰を支えられるようにしてミーティングブースへ戻った。
午後からここで打ち合わせ予定だったがだいぶ遅くなってしまった。
室長や田代さんを始め何人かのメンバーと打ち合わせの予定だった。

「今日は俺らのすり合わせをさせてもらって、明日ミーティングにずらしてもらったから」

「そうなの?助かる。何もかもありがとう」