冬休み2日目の30日。
年の瀬でせわしなく感じるが今日は約束していた日帰り温泉の日。
7時に待ち合わせ、といつもの出勤よりも早いがなんの苦もなく待ち合わせ場所に向かった。朝早いが会社員も学生も冬休みに入ったからか電車は空いていた。

朝早いので車で食べられるように昨日のうちにスコーンを焼き、今朝はおにぎりも作ってきた。

待ち合わせのいつもの改札に着くとすでに加賀美くんがロータリーに車を止め、シートに座っているのが見えた。
加賀美くんらしい黒のRV車で、見覚えのあるエンブレムがボンネットに飾られていた。
高そう……そんなことを考えていると加賀美くんが私の存在に気がつき、降りてきてくれた。

「おはよう。槇村早いな」

「おはよう。楽しみで早めに着いちゃった。でも加賀美くんも早いね」

「俺はいつも早起きだからな。まだ早いし、寒いから車で待たないか?ほら」

そういうと助手席のドアを開けてくれた。
車高が高いので荷物を持ってもらい乗り込むと加賀美くんがドアを閉めてくれた。
運転席に回り込んだ加賀美くんに「ありがとう」とお礼を言うと、なにが?と大したことではないと言うような返事が返ってきた。

「槇村の荷物、日帰りなのに重いな。修行にでも行くみたいだぞ」

「おにぎりとスコーンを作ってきたの。でもこんなに綺麗な車じゃ汚しちゃいそうだから食べれないね。どこかのパーキングで食べようか」

「車は気にしなくていい。それよりも今食べたい。腹減った」

「そお?ちょっと気がひけるけど加賀美くんがお腹減ってるなら出すね。おにぎりはシャケと明太子と高菜なの。スコーンは紅茶とチョコチップなの。どれがいい?」

「高菜」  

「了解」

私はカバンの中から保冷バッグを取り出し、その中から目当てのおにぎりを探し出すと一つ加賀美くんに手渡した。

「はい、どうぞ。飲み物を買おうと思ったけどまだなの。あとでコンビニ寄っていい?」

「あぁ。みんな集まったら飲み物買っていくか」

加賀美くんはラップに包まれたおにぎりを出し大きな口でかぶりついた。
男の人は一口が大きいなと感心していると、加賀美くんから美味しいと一言聞こえてきた。
良かった。

「なあ、本当は山口と2人で行きたかったか?」

ふとそんなことを聞いてきた。

「え?別にそんなことないけど。ただ、久しぶりに温泉行きたいなぁって。加賀美くんは行きたくなかった?」

「そういうことではなくてさ。山口と2人が良かったのかってこと」

「別にどちらでもよかったよ」

「ふーん」

なんだかちょっとだけ口角が上がったように見えた。

「おにぎりもう1個食べてもいい?」

「もちろん。何にする?」

「明太子」

「はいはい。ちょっと待ってね。お茶買ってこようか?喉に詰まらない?」

「なら俺が行ってくるからお前は寒いからここにいろよ」

「大丈夫だよ」

そういい扉を開けようとしたところで肩を掴まれた。私は座席に座るよう言われ、加賀美くんは近くの自販機に買いに行ってくれた。

「ほらミルクティー。お前の分」

「ありがとう。はい、おにぎりです」

「あぁ。ありがとう」

加賀美くんが2つ目のおにぎりを食べているところで大介くんと梨花ちゃんがやってきた。
私は窓を開け、手を振ると2人は気がつきこちらに近づいてきた。

「おはようございます。今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ。さ、車に乗ってくれ」

「はい」

2人は後部座席に乗り込んだ。

「朝ごはん食べてきた?今、加賀美くんにもあげたんだけどおにぎりとスコーン作ってきたの。食べる?」

「槇村さんすごーい。私スコーン食べたいです」

「俺、おにぎり食べたいです。朝早かったから食べてからなくて」

「はい、2人ともどうぞ。加賀美くんがさっき買ってきてくれたお茶もあるよ」

「ありがとうございます」

「さ、出発するぞ」

「お願いします」

車は静かに動き始め、すぐに高速に乗ると時間が早いせいかさほど混むこともなく山梨に入った。
目的の温泉の前に少し観光しようと武田信玄ゆかりのお寺を回り、甲府駅近くの穴場ハンバーグ屋さんに向かった。たまたま知ったという大介くんおすすめのお店で手ごねハンバーグがめちゃくちゃ美味しいと絶賛していた。
お店に入ると混雑していたが少し待つと席が空き案内された。
大介くんと加賀美くんは300gも注文していて食べ切れるのか心配。私と梨花ちゃんは150gにして注文するとあっという間にサイドメニューやパン、スープが並びテーブルがいっぱいになった。

「どんどん食べないと、このあとハンバーグもきますからね」

大介くんに促され、さっさとサラダやスープなどを食べていくがさらにサイドメニューが届いてびっくりした。

「ここのサービスすごいんです。書いてないけど店主の気の向くままに作られたものが出るらしくて。だから2人がハンバーグを大きなものを頼んだらいうつもりでした。ギリギリ150なら食べ切れるかな、と思ったんですけどどうですか?」

「わからないけど、多分食べ切れる…かな。早くハンバーグ来ないと満腹になっちゃいそう」

「山口くん、そういうことは早く言ってよ」

「ごめん、ごめん。でもハンバーグが絶品だから絶対食べ切れるよ」

半分くらい減ったところでハンバーグが運ばれてきた。
目の前で俵状のハンバーグを半分にカットし、ソースをかけられるとジュッといういい音をたて、香りと視覚で食欲が湧いてきた。

なんだかんだいいながらも、4人とも完食してしまった。

「さ、お腹も満たされたし風呂に行きますか」

「うん」

「せっかくだから露天があるところに行きましょうか」

また大介くんの案内で加賀美くんの車に乗り込み移動することになった。
ナビするなら、と私は助手席を譲ろうとするが加賀美くんは気が付かなかったようでドアを開け荷物を持ってくれる。
なんとなくいいにくくなり、私はまた助手席に座らせてもらった。
大介くんも梨花ちゃんも何も言わなかったので私もとくに何も言わずに座り込んだ。でもどことなく大介くんは顔が笑っていないように見えた。