帰りの車もまた私が助手席に座り、東京へ戻った。

夕飯の時に少しだけビールを飲んだからか後部座席の2人は眠っている。

助手席の私は寝るわけにはいかないとなんとか頑張るが時折カクンと頭が落ちてしまう。

「槇村、無理するな。寝てていいから。運転好きだから気にしなくていいよ。大丈夫だから寝てて」

「でも…一人で運転じゃつまらないでしょ?」

「そんなことないさ」

「でも私たちが誘ったのに寝ちゃうのは申し訳なくて」

小声で話すとクスッと笑っていた。

「なら何か話さないか?あと……槇村の作ったスコーンも……食べたいんだ」

朝はおにぎりしか食べなかったが、スコーンのことを覚えていてくれたみたいで加賀美くんは食べたいと言ってくれた。
私は加賀美くんにチョコチップのスコーンを取り出すと手渡した。

「まだお腹空いてた?」

「いや、槇村のスコーンを食べたかったんだ」

「え?」

「せっかく昨日作ってくれたんだろ。おにぎりもいい塩加減で美味しかった。このスコーンもサクサクしてて甘さもちょうどいいし槇村は料理が上手なんだな」

「こんなの料理じゃないよ。簡単なものばっかりだもん。加賀美くんは料理するの?」

「たまにな。でも簡単なものしかできないよ。男の料理って感じの適当なやつだ」

「そうなんだ。なんかこの8年加賀美くんと仕事してきたけどまだまだ知らないことがたくさんあるんだね。加賀美くんがこんな凄い車に乗ってることも知らなかったよ。でもイメージに合ってるね」

「そうか?車で遠出するのが好きだから大きいのがよかったんだ」

次々と話が出てきて尽きることがない。
加賀美くんとプライベートなことはあまり話したことがなかったんだ。加賀美くんに近づいた気がしてちょっとワクワクする。

「同期会どうだった?」

「行かなかったよ」

「本当に行かなかったの?みんな残念がってたでしょう。加賀美くん目的の人が多いんだから。私たちが仲のいい同期会の空気を壊したんだよね。私たち以外にはこれからもみんなで仲良くしてほしいの」

「槇村のせいじゃない。現に同期会を開こうとしてる時点でみんな気にしてないってことだよ」

「そう?なら加賀美くんは次は行ってあげてね。同期のスターなんだから」

「そういうの面倒くさいんだよ。みんなにいい顔振りまいて歩くのもさ」

「なら最初からそのブラック加賀美でいけばよかったのにね」

私は笑いながら話した。

「私にだけいい顔しないのは私もイラっとするけどさ。でも付き合いやすくもあるよ。見た目がいい分近寄り難かったしね」

「見た目がいい、か。みんなそればかりだな。中身はどうでも良くて、見た目で判断され近寄ってくるんだよ。もうそういうのにはうんざりだよ。中身見てガッカリされるのもさ」

「中身見てガッカリされるの?ま、感じ悪いなと思うけど優しいところや気配りできるところもあるのにね」

「万人に優しくしてるからな」

「それがダメなのかもね。女の子は自分だけ優しくしてほしいんじゃない?特別感が欲しいんだと思うよ。加賀美くんはみんなに優しいからヤキモチ妬くんじゃないのかな」

「槇村はそう思うの?」

「そうだね。私だったら自分だけの特別があるのは嬉しいかもね。付き合ってるから自分だけ特別、が欲しいかもね。でももうそんなのどうでもいっか」

「そういうものか」

「30になって今さら恋愛相談?」

「いや、まぁそんなもんかな」

「いいね。まだ加賀美くんの未来は明るいね」

「槇村だってまだ30だ。まだこれからだろう」

私は答えることができない。
まだ?
もう、じゃないかな。
女にとって30って大きな区切りなんだよ。
そこで失敗した私はもう30だから、今から頑張るには相当な気持ちがないとできないんだよ。
加賀美くんにはわからないよね。男の30と女の30がどれほど違うか、なんてさ。

年が明け2月上旬から石垣島のホテルの予約が始まる。4月1日オープンに向けて動き始める。
オープンを見届けて私は退職するつもり。
時期を見て加賀美くんにも話すつもり。
梨花ちゃんにやめる意向は伝えているがあらためて話さないと、と思っている。梨花ちゃんは加賀美くんや大介くんとの恋愛を進められるが辞める私は1歩踏み出すことはないだろう。

都内に入り、加賀美くんはそれぞれの家に送り届けてくれるという。
遠回りになるので断るが、夜は危ないからとそれぞれ送り届けてくれる。
そういう優しさがみんなを勘違いさせてくんだろうな。そして彼女は怒るんだろうな。

大介くん、梨花ちゃんと順番に下ろし最後にうちを回ってくれた。
自宅の前に着くと加賀美くんは降りてきてくれて、玄関に入るまで見送ってくれた。
私は手を振ると家の中に入っていった。