何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。



*****


目が覚めた時、まだ外は真っ暗だった。


それもそのはず。時刻はまだ夜中の二時。ほとんど時間は経っていなかった。



「……やってしまった」



隣で気持ちよさそうな寝息を立てて夢の中にいる隼也。


お互い何も身につけていない姿で、薄い布団だけが掛かっていた。


……幸せだった。とても、幸せな時間だった。


隼也に愛されていると錯覚してしまうほどに、愛おしい時間だったと思う。


でもきっと隼也は起きた時、数時間前の情事のことはもう覚えていないだろう。


あれだけ飲んだ後だ。いつもの感じだと絶対に記憶が曖昧なはず。酔い潰れるとかなりの頻度で記憶を無くすタイプの隼也だから、まず間違いない。


それなら、私を抱いたと分かれば隼也は困るだろう。


ずっと友達として接してきた。


この関係を壊したくなくて、私の気持ちをひた隠しにしてきた。


隼也にもバレていない自信があった。


それなのに、そんな友達と身体の関係を持ってしまったとなれば、隼也はどう思うだろう。


私に対する罪悪感。本当は汐音ちゃんが好きなはずなのに、私と重ねてしまったことに対する絶望もあるかもしれない。


それに、きっとこのベッドの上は、今まで何度も汐音ちゃんと共に夜を迎え、幾度となく甘い時を過ごしたはずだ。たくさんの思い出が詰まっている場所だろう。


そんなところで他の女を、まして私を抱いたなんてことを知ったら。



……想像するのも怖かった。


< 18 / 116 >

この作品をシェア

pagetop