何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。



あの頃の日々を思い出して、思わず笑みが溢れる。


よくあの目まぐるしさを乗り越えたな、と自分で自分を何度褒めたことか。


三年経ち、隼輔も今ではニ歳を過ぎた。


走り回るようになり、したったらずの口調でよく喋る。


堀の深い顔立ちとふわふわの髪の毛は、おそらく父親譲りだろう。


男の子は母親によく似るって聞くのに、誰に聞いても私の要素はあまり無いらしい。


私も隼輔の顔を見るたびに隼也を思い出すけれど、私には隼輔さえいれば、それでいい。
私ももう二十六歳だ。


この三年間を隼輔と仕事に捧げてきた。


隼也はどうしているだろう。考えないわけではないけれど、連絡手段が無い今、それを知る術は無い。もしかしたら隼也は、可愛らしい女性とすでに結婚しているかもしれない。


きっと私のことなんて忘れて、元気に暮らしているだろう。


チクリと痛む胸に気付かないふりをして、新たな環境での仕事に励んだ。


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