何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。



「もう戻らなきゃ」


「仕事終わったら迎えに行ってもいいか?」


「え?でも……」


「まだ話したいことがいっぱいある。聞きたいことも、これからのことも」



"これからのこと"



……私と隼也に、"これから"がある、ということ?


驚きに揺れる目に、私の頭にポンと手を添えて微笑んだ。



「わかった。隼輔迎えに行って待ってる」


「あぁ。……あ、あとこれだけは今言わせて」


「え?」



会社に戻ろうと背を向けると、後ろから声がかかって振り向いた。



「舞花。俺との子どもを産んでくれて、ありがとう」



にっこりと。太陽のような屈託のない笑顔。
私の大好きなその笑顔から発せられた"ありがとう"に、また涙が滲んだ。


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